第九二九話 「宝箱の価値」
とりあえず、まだ換金はしないという前提で、第9階層まで行った証拠としてランク4の魔素核を迷宮側の換金所の係員に見せ、合わせて宝箱に関しての話を聞いてみた。
「第9階層の宝箱?!本当かい?!」と、驚く亀人族の男に、せっかくだからとメニューのアイテム欄から宝箱を3つ出して見せてみることにする。
大箱の宝箱を出した際の「これまた凄腕の運搬者だな」という呟きすら、2個目の中箱を出した時には途中で止まり、3個目の小箱を出した際には、亀人族の男は、あっけに取られた顔をしていた。
それどころか、次々と係員が集まって来ている。
ちなみに大型の宝箱の大きさは、小型冷蔵庫並の大きさで、これは武器も防具も期待できるなと、集まった係員の一人が呟いていた。
中型の宝箱は、一般的にイメージする宝箱の大きさといっても良い感じの大きさで、ショートソードなら真横に、ロングソードでも斜めになら入りそうなくらいの大きさのもので、一番ベーシカルな大きさらしい。
小型の宝箱は、ティッシュの箱を重ねたくらいの大きさで小さいものだが、「金箱だ金箱」と、これも係員の声が大きい。
試しに聞いてみると、貨幣が詰まっている率がとても高く、下手な装備品が入っている宝箱よりも人気があるのだそうな。
言われてみれば、この大きさにびっしり金貨でも詰まっていようものなら一財産どころか、豪邸が庭付きで建つんじゃないだろうか?
「どうだい勇者殿、せっかく未開封で3つも宝箱を持ってきてくれたんだ、その実力の証明と、俺たちの勉強も兼ねて、良ければいくつかでも競りにかけれは貰えないかい?
手数料は勉強させてもらうぜ。」
奥から出てきたのは熊人族らしい体格のいい男性で、周りの反応的に、どうやらこの換金所を仕切っている人物らしい。
「競り、ですか?」
「ああ、ま、これだけのものなら、半分はお披露目でも構わないさ。」
ちょっと興味が出てきたのと、ミツキが半分乗り出すくらい興味津々なので、とりあえず話だけでも聞いてみることにした。
ざっくり宝箱の競りの方法は3つ。
1つ目の競りは、皆の目の前で宝箱を開ける。
自分が欲しいものが入っていたら、お披露目をした上で、全部自分のものにして終了。
そうでなければ、中身を全部競りにかけるという、『全競り』
2つ目の競りは、同じく皆の目の前で宝箱を開ける。
その中で自分が欲しいものだけを1~2つ自分のものにした上で残りを競りにかけるという『部分競り』
この競りには自分も参加しても良いというメリットがある。
3つ以上欲しいものが入っていた場合の救済措置だな。
3つ目の競りは、宝箱を開けずに競りにかけるという『伏せ競り』
主に金箱と呼ばれる小型の宝箱で行われる競りで、まさに一攫千金のギャンブルに近く、競りの中でも一番白熱するのがこれらしい。
ちなみにこの『伏せ競り』には、自分も参加しても構わなく、自分で回収するもよし、うまく競っていって値段を釣り上げていくも良し、というものらしい。
ちょっと面白そうだな。
「パパ、ちょっと面白そうッスよこれ。」
「うん、ただ開けるよりも楽しそう。」
「うにゃー、みんな喜ぶ?」
「たしかに盛り上がりそうですね。」
4人の印象も悪くないし、勇者の顔見世興行のイベントとして考えてもそう悪くない。
前回と同じく、気前の良いところは見せておいた方が後々楽そうだしな。
「わかりました。3個とも競りにかけましょう。
保管は私?それともそちらで?」
「おっ、全部かけてくれるとは太っ腹だな。
疑うわけじゃないが、保管はこちらでさせてもらおう。
第9階層の宝箱ならシーリングがされているから、開ければすぐわかるが、不正防止のためだ、悪く思わないでくれ。」
シーリング?といわれ改めて宝箱をよく見ると、確かに開封口がシリコン的なもので封がされている。
おそらく水が入らないように工夫されているのだろう。
結果的に競りの不正防止になるというのは皮肉なものだ。
「では、お預けいたしましょう。
ところで競りはいつごろ実施する予定ですか?」
あまり日数はかけたくないのだが。
「ギルドマスターの立ち会いが必要だから明日の晩だな。
なに、自力で換金するよりは、遥かに早く確実に換金できて儲かるから安心してくれ。」
そういわれてみれば、確かに立派なものが入っていたとしても、換金するすべがなければ、文字通り宝の持ち腐れだな。
実際、持ち腐れているアイテムも多いことだし、ここは一つ、探索者ギルドの換金部に任せてみよう。
サオリです。
競りなんて初めてなので、ドキドキしてしまいますね。
宝箱に素敵な物が入っていると良いのですが……。
次回、第九三〇話 「ウルキのお昼」
まぁ、3つもあるのですから、そう恥をかくような事はないとは思いますけど。




