第九十二話 「亜人の女」
「あら、いらっしゃい。お兄さん一人とは珍しいわね。」
「サナがお世話になりっぱなしですいません。今朝は調理場をお借りしたどころかエプロンまでいただいてしまって。」
「いいのよー。どうせ娘がもう使わなくなったやつだし。ご贔屓にしてくれるなら、あれくらいサービスのうちよ?」
そういって、おかみさんはカラカラと笑う。
今は、二人を娼館の部屋において夕食の買い出しに夜市に来ている。
ちなみにミツキには再度、淫スキル【淫具召喚】で眼鏡を出してきた。
今回は淫スキル【婦人科】の力も借りて、眼鏡の度数調整もしておいたので、前より使いやすいだろう。
ミツキを外に連れ出せないのもあるが、二人には積もる話もあるだろうと思って留守番をお願いしたのだ。
「持ち帰りで3人分、おまかせで包んでください。」
「はいよ。まいどあり。」
最初は何か包んで持ってこようかと思ったが、世界観的にそれが正しいのか分からないので、今回はチップ的なものを弾もうかと思っている。
風習がわからない。ってのが一番この異世界に来て困ってることかもしれない。
種族によっても違うらしいので、逆に気にしないのが一番な感じもしないでもないが。
そういえば、せっかくの機会だから他の客がいないうちに前から気になっていたことを聞いてみるか。
「おかみさん。」
「なーにー?」
「サナになんか吹き込みましたね?その、夜の事とか。」
「その様子だとお楽しみだったようね。」
そういってまたカラカラと笑うおかみさん。
悪気はまったくないらしい。
「私、鬼族のそういう方面にまったく詳しくないので、どういう状態が普通なのかわからないんですよ。発情期以外でも、その、そういう気持ちになったりするもんなんですか?」
これセクハラじゃねーかとも思いながらも今後のためにあえて聞いてみる。
「そーねー。ならない。といったら嘘になるわね。
ただ、発情期中に比べると段違いに少ない。いえ、逆ね。発情期中がなり過ぎるのよ。
発情期中は身体だけじゃなくて心も盛り上がっちゃうの。愛情面も含めてね。
なので初めての発情期が幸せだったので、これならと発情期終わった後にまた試してみてなんか違う。次の発情期を待とう。ってなるのは『亜人の女あるある』なのよ。」
おかみさんは調理の手を休めずに、どこか遠い目をしながらそう説明してくれた。
「ただね、手を繋ぐとかそういう触れ合いたいという感覚の延長線上として一つに繋がりたいという欲は発情期以外でもあるのよ?
そういう気持ちになる時はあっても身体がついていってないせいか、亜人同士の場合は盛り上がらずに立ち消えになっちゃうのも『あるある』ね。」
おかみさんは人差し指で自分の鼻をちょんちょんとつつく。
発情臭がしないのでテンションが上がらない。といった理由なのか。
「そういう意味では相手が人族の場合はある意味幸せなのよ?
ほら、万年発情期だから、ちゃんと身体重ねるところまで応えてくれるでしょう?
とはいっても、発情期中ほど盛り上がらないから不完全燃焼で終わっちゃうのがほとんどだけどね。」
「結局の所、しなくなるんですか?」
「そうね。したいと思わなくなっていくのが普通ね。ただ…」
「ただ?」
「自分が気持ちよくなりたいだけで身体を重ねるわけじゃないでしょう?
だから、相手に気持ちよくなって欲しい。ってタイプだとそこに幸せを感じちゃうことはあるのよ。
他にも普段から発情期中と同じくらい愛情が溢れている娘とかもそうね。
そういう娘たちは逆に人族相手の方が応えてもらえる分、幸せなときもあるわ。」
なんかパートナーがEDになった時の人妻感がある。
「あとは、お相手が異様に上手な場合とかもなりそうね。
要するに心と身体が発情期レベルに満たさるなら亜人族の女だって人族と変わらない性生活になるはずよ。」
なかなかないでしょうけどね。と、言葉を添えて竹の皮のようなもので包んだお弁当を3つ手渡してくれた。
「はい、おまたせ。銀貨3枚ね。」
「じゃぁ、少しですけど。エプロンと貴重なお話を聞けたお礼ということで。」
そういって銀貨5枚を渡すと、おかみさんは笑みを浮かべて、まいどあり。と受け取ってくれた。
「それにしても、親子で同じ事聞いてくるなんて面白いわね。」
最後におかみさんにまたカラカラと笑われた。
 




