第九二四話 「ウルーシの街から」
翌朝、探索者ギルドの、おもてなしの朝食をいただいた後、昨晩の清算をした後、事後処理はギルドマスターのビャクに任せることにして、ウシトラ温泉街へと馬車で戻ることにした。
というか、そういう馬車が用意されていた。
街から出た後、こっそり戻って、淫魔法【ラブホテル】でショートカットするつもりだったのだが、あてがはずれたとはいえ好意で用意されたものなので、ありがたく使わせてもらうことにしよう。
バスガイドならぬ馬車ガイドもついて、ウシトラ温泉街までの道行きを面白おかしく説明してくれるので、馬車がまだ軽くトラウマなサナやミツキでも、楽しそうに移動できたのは僥倖だろう。
そういえば、そんなことを思い出しもしなかったコマさんの話術は凄いものだったのだな、と改めて感心する。
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さて、ウシトラ温泉街まで来たが、角赤亭まで顔を出すと、また長くなりそうなので、適当な場所で【ラブホテル】を使い、トラージの街まで戻って来た。
いきなり竜宮城までショートカットすることも可能なのだが、セキュリティ上問題があるだろうし、それが問題視されて敵とまでいわなくても要注意人物扱いされても困る。
ここは正々堂々正面から入って、サビラギ様とユメニシ陛下に報告をすることにしよう。
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報告をうけた二人は当然驚いた顔をしていたが、サビラギ様の表情は更に複雑なものだった。
魔王と会話ができる。
それどころか魔王と取引ができた。
と、いうことが、サビラギ様にとっては埒外だったためだろう。
「つまり地母神様の作った迷宮から生まれた魔王は必ずしも悪というわけではないという訳じゃな?」
「ええ、魔王は自分のことを迷宮の維持のためのシステムだと言い切ってました。」
【古代共通大陸語】というレアな言語スキルが必要とはいえ、対話ができるとなると、また対魔王の扱いが変わってくる。
『星の根』の危険性を熟知し、実質自害するほどの理解力を持つ相手ならなおさらだ。
「今回は地母神様のつくられた迷宮に地母神様の勇者が訪れた。
そのため友好的だった。という可能性は?」
「それは多いにあると思います。
なので他の迷宮でも同じようにいくかどうかは未知数ですが、多くの迷宮では、もしもの時に優位に事が運ぶ可能性があるということで、報告にあがりました。」
ユメニシ陛下の問いに、そう素直に答える。
「ふむ、どのみち魔王が居た場合の、『たられば』じゃな。
レン達は引き続き、各迷宮の魔王の発生状況について調査を続けてくれ。」
「わかりました。」
結局のところ、迷宮に魔王が居た場合、魔王を消滅させなくてはならない状況になる可能性は依然高い。
『星の根』の危険性がある今なら猶更だ。
どうなるにしても調査は続けるべきだというサビラギ様のいうことはもっともだろう。
「それでは、念のため、トラージの迷宮も確認した後、十二振興街の迷宮を時計回りに調べていこうと思います。」
「大変な任務だと思うが、よろしく頼む。」
そういって、ユメニシ陛下が頭を下げるので、おもわず恐縮してしまった。
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ユメニシ陛下から、各ギルドへの紹介状を4通追加で貰い、一回【ラブホテル】で一息ついた後、装備を整え直し、社経由でトラージの迷宮へと向かった。
「ここの迷宮も久しぶりな気がしますね。」
「実際にはそれほどたってないッスけどね。」
「ととさん、ここで落ちてるのは拾っていいのにゃ?」
「ああ、拾っていいよ。」
「うふふ、チャチャちゃん、拾うの大好きだものね。」
などと、これから魔王の部屋へ行くには和気藹々とした会話をしながら、迷宮の下層へと延びる井戸をゆっくりと降りていく。
地図は事前に手に入れているので、実質9階層までへのピクニックだ。
あとはそこで、いつもの淫魔法【夜遊び情報誌】で10階層がちゃんと消えているか確認すればよいだけなので気が楽だ。
前、あれだけ苦労したトリプルヘッドシャークも今となれば、そう手ごわい相手じゃなくなっているしな。
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「入口ないにゃね。」
「地下も塞がってるッスか?」
「塞がっているわね。じゃ、これでトラージの迷宮は大丈夫かしら?」
念のため10階層への入り口が会った部屋までいってみたが、既に普通の部屋となっており、地下に降りられるような状態にはなっておらず、勇者装備の『変成の腕輪』を使っての【夜遊び情報誌】でも、地下に空間があることは確認できなかった。
つまり正常な迷宮の状態に戻っている。ということだ。
と、なると、次はウルキの迷宮の調査だな。
チャチャにゃ!
今日は久しぶりに拾いたい放題だったのにゃー。
と、いっても、あんまりたくさん戦ってないから、ちょっとだけだったのにゃ。
次回、第九二五話 「ウルキの迷宮」
次の迷宮は初めて入る迷宮だから、変わったものが手に入るかもしれにゃいって、ととさんがいってたから、楽しみなのにゃ。




