第九一六話 「ウルーシの迷宮『11階層』」
ビャクを淫魔法【ラブホテル】を使ってギルドマスターの部屋に案内した後、迷宮からの探索者避難と、念のため、対スタンピートの準備をしてもらえるように話し、別荘でサナを起こしてから二人で11階層へと戻ってきた。
とりあえず、ビャクのリアクションは予想どおりだったのでカットだ。
「さて、どうしたものかしらね?」
「どういう意味ッスか?今から魔王を倒すんスよね?」
「迷宮獣の暴走もなんとかしなくてはなりませんよね?
魔王がいなくなれば必ず止まる、とも限りませんし。」
「そうなのよね、私達の方の準備は良くてもビャク側の準備が結構かかると思うのよ。
暴走に関してはトラージの迷宮の時みたいに、鐘か何かで探索者を迷宮から呼び戻すようなシステムにはなっているとは思うんだけど。」
「うにゃぁ、ゆっくり魔王を倒せばいいのにゃ?」
「そんな余裕あるかな?」
「会話ができれば、あるいは、ってところね。
あとスタンピートの方はちょっと考えがあるわ。」
「でもあれだけの数ですよ?」
「さすがに全部相手にするのは無理にゃぁ。」
「こういう方法はどうかとおもってね……。」
▽▽▽▽▽
入念な打ち合わせを終え、11階層への階段を上がっていいく。
淫魔法【夜遊び情報誌】とレーダーによると、この先には1体しか魔族がいない。
おそらくそれが魔王であろう。
念のためマップを広く見ているが、『星の根』らしきものは見られないので、まだ接触されてないか、最悪、接触後で取り込まれているの2択だ。
後者だと分かった時点で、即、逃げて、サビラギ様を呼んでくることだけは確定しているが、あとは、魔王の様子次第だ、慎重に接触していこう。
11階層への最後の扉をあけ、中に入ると、中は戴冠式でも行われそうな王城の広間といった様子の場所に出た。
もちろん【ラブホテル】はこの扉にもかけておく。
正面には玉座に座った犬、いや、白い狼の顔をした獣人が、鎧姿で玉座についていた。
「■■■■■?」
ん?この言葉は、【古代共通大陸語】だな。
と、いうことは会話が可能なのか。
『勇者よ。魔物の暴走を止めに来たわ。』
「なにものだ?」という問いに、そう端的に返す。
一応、なにかの時のために念話で、皆には同時通訳をしておこう。」
『我と会話が出来るのか、面白い。暴走を止めてどうする、理で損をするのは、お前たちのほうだぞ?』
『どういうことよ?』
『ふむ、勇者といえども知らぬか。』
一瞬、魔王の体勢が変わったので、よもや戦闘か?と思いきや、深く玉座に座り直し、指を組んでゆっくりと迷宮について話はじめた。
『迷宮とは神の恩寵、万人の願いを叶える神のお作りになった「るつぼ」。
人が願う限り、食べ物でも、資材でも、どんな材料でも湧き出す、魔法の泉、それが迷宮である。
ただ、報酬には対価が、施しには材料が必要なように、いくつかのルールがある。
お前たち人から見れば、迷宮獣を倒さねば材料を手にいれられず、迷宮に魔力が満ちていなければ迷宮獣が形をなさず、迷宮で何かが死なねば迷宮獣が生まれない。
だが、我々、迷宮の管理者からすれば、少し違ってくる。
迷宮内で生き物が死なず迷宮が飢えていれば材料はつくられず、多くの人が欲望を持って出入りしなければ迷宮に魔力は満ちず、迷宮獣のみが死にゆけば、魔素核が生まれず、迷宮獣は形をなさない。』
『ん?魔素核が生まれる条件は?』
『魂よ。魂魄の魄なくしては、魔素核は迷宮で形を成さぬ。』
『それは人の?』
『主にはそうだ。だが、それだけとも限らん、どんなものにも魂魄は宿るからな。』
『簡単にいえば、迷宮には生贄が必要だと?』
『聡いではないか、勇者、そのとおりだ。
生贄なくして奇跡は得られぬ。
無料で、迷宮から簒奪できるわけがなかろう。」
チャチャにゃ!
魔王は犬のおじさんなのにゃ!
でも、相当強そうな感じがするにゃ。
ととさんと同じくらい?
次回、第九一七話 「魂魄」
で、魂とか魂魄とか、なんなのにゃ?