第九一三話 「ショートカット」
実際にショートカットならば行ってみようということで、少し渋るビャクを連れながらその謎の建物へと向かった。
と、いっても淫魔法【夜遊び情報誌】と単距離転移魔法との組み合わせで移動しているので、あっという間なのだが。
その建物は、一言でいえば山小屋で、そこから下の平原、というか、平原を挟んだ反対側の山へと、頑丈なワイヤーがかかっている。
もちろん、この吹雪によって凍ってしまい、氷でコーティングされているような状態だが、かなり重い物でも運べそうなワイヤーだ。
「このワイヤーにロープでもかけて、両手で持ち、滑っていくことで、反対側の山へと向かうことが出来る。
向こう側に降りてしまえば、第8階層への入り口もそんなに遠くない。
遠くないのだが、山道でもいったが、鳥系の迷宮獣が襲ってくることがあるし、なにせ両手が塞がるので、危険この上ない。
一応、落ちても平原の雪のおかげで死ぬようなことはないし、魔法の無詠唱使いがいれば何とかならないこともないが、凍えるほど寒い……のは大丈夫なのか、まぁ、それでも二度と乗りたいとは思わんな。」
妙に実感のこもった説明に、たぶんサビラギ様辺りにでも乗せられたんだろうなぁ、と、ちょっと生暖かい気持ちになる。
「まあ、ちょっと下ごしらえをすれば、なんとかなりますよ。」
ここは淫スキル【淫具制作】の腕の見せ所だな。
▽▽▽▽▽
と、その前に、せっかくの建物だ、扉をあけて淫魔法【ラブホテル】の出入り口を確保しておく。
山小屋の中は一応、緊急避難所になっているのか、食料こそないが、竈はついており、一休みできるようにはなっている。
木は迷宮内に入っているが、枯れ木は迷宮に食われてしまうので、薪になるようなものまでは期待できなさそうだ。
天井が一部開放式になっているので、無理やり生木でも燃やしても、煙はなんとか出ていくかもしれないな、くらいなもので、地味に意地の悪いトラップだったりしたら嫌なので、特に中のものには触れないでおこう。
「ご主人様、なんか変わったものあったッスか?」
「いや、とくにこれといって、という感じね。雪が当たらない分、この中で準備をしてしまおうかしら?」
「あー、じゃあ、アタシ、皆を呼んでくるッスね。」
▽▽▽▽▽
準備といってもそう難しいものではない。
淫魔法【緊縛の心得】で出せるベルト式のボンデージスーツをハーネス代わりにして、本来は身体を拘束する用の金具パーツに【淫具召喚】でベルトを通し、屋根にかかっているワイヤーにかける、といったものだ。
一応、両手両足があくので、地上のように自由にとはいかないが、魔法を唱えたり、多少の武器の使用はなんとかなるだろう。
問題は、降りていく順番だが……
「え?!わたしが最初ですか?」
「いざという時の壁役としては、サオリさんが最適だとおもうんです。」
「それは……【金剛結界】もありますし、そうだと思いますが……。」
と、嫌々ながらサオリさんが先頭に、その次は魔法迎撃要員としてサナ、ミツキが続き、間に近接戦闘員のチャチャとビャク、殿は、またしても私が務めることになった。
お仕事としては、ハーネス類の管理は勿論、飛んで襲ってくる敵を【緊縛の心得】や淫魔法【睡眠姦】で落とす役だな。
前にハーピー相手に散々繰り返した戦法だ、たぶん大丈夫だろう。
▽▽▽▽▽
「じゃ、じゃぁ、行きます。」
緊張した趣きで、さおりさんが、たたらを踏む。
まだ、覚悟は決まっていないようだ。
「あまり列が伸びすぎると、前後からカバーが出来なくなるから、次々と続いてね。」
そう、他のメンバーに声をかけている間に、「きゃぁああああああ……」というサオリさんの悲鳴が聞こえる。
誰か押したな?
「じゃ、次、行きますね。」
サオリさんの後をワクワク顔のサナが続く。
楽しそうね貴女。
「どんどん行った方がいいッスね。」
続いてミツキが滑り降りていく。
ちょっとだけサオリさんとの間が広がり過ぎているので淫魔法【淫具操作】でベルトの角度を変えて、簡単なブレーキをかけ、等間隔で近距離になるように調整する。
「俺たちは一緒にいってしまっても構わないのだろ?」
遠距離武器を持たないビャクはチャチャをかかえながら、そういって配置につく。
最悪、チャチャが【神使化】して魔法を撃つことになったとしても、この方が安全そうだから、いいか。
「ええ、そのまま、二人でどうぞ。」
「いってくるにゃー!」
いや、戻ってはこなくていいんだ。
で、最後が私。
各人が2~3mの距離を保つようにベルトを調整しながら、速度も調整しているのだが、なにせ相手が凍り付いたワイヤーなので、最終的に結構なスピードになりそうだな。
チャチャにゃ!
かかさんは凄い声上げていったけど、なんか滑るの楽しそうにゃ!
すごい遠くまでいけるんにゃよね?
楽しみにゃ!
次回、第九一四話 「群れ」
それじゃ、いってくるにゃー!




