第九〇七話 「ウルーシ探索者ギルド ギルドマスター」
周りが騒がしくなって来たので、ギルドマスターを待っているよりは、直接部屋に連れて行った方が早いと判断したのか、蛇人族の女性が足早に廊下を案内してくれている。
基本的なつくりはエグザルのギルドと同じような感じだな。
長い廊下が続いて、一番奥がギルドマスターの部屋、といったところだろう。
それらしき豪奢な扉の前に、最初の受付の子がドアを叩きながらギルドマスターに声をかけている。
「かわるわ。」
それをそっとよけ、代わりに小さく数回ノックすると、返事を待たずに扉を開ける蛇人族の女性。
実は結構偉い人なのかもしれない。
ギルドマスターの部屋というのは、ある程度テンプレがあるものなのか、エグザルの部屋とほぼ、そっくりのつくりだ。
違いを上げるとすれば、書籍よりも武器や防具が飾ってある量の方が多いというところか。
そんな部屋の奥の机に、どっかと足を上げ、頭の後ろで手を組み、こちらを睨みつけている虎人族の男がいる。
見た目は30代前半に見えるが、亜人族の見た目なので実年齢ははっきりしない。
短く刈り込んだ髪の毛が、いかにも虎人族といった感じの模様をしているが、髪色は黄色ではなく白だ。
「ウルーシ探索者ギルド ギルドマスター 白金虎ビャクだ。
で、お前が新しい勇者か?」
「はい。」
「あい!」
あ、
言葉に釣られてチャチャが手を上げてしまった。
チャチャが亜人族初の勇者なのは、もうしばらく内緒にするはずだったのに。
「マジか!
で、どっちが強いんだ?」
「うにゃ?よくわからないにゃ?
でも、ととさんは、なんかすごいにゃよ?」
「あー、えーと、」
秘匿事項が1件目で漏れてしまって、一方冷や汗ダラダラのワタクシ。
どう誤魔化そう?これ。
「あー、心配はいらん。サビラギの姐さんから一筆貰ってる。
虎人族や獅子族などの猫人族に絡む亜人族には、先に教えておくとな。
えーと、チャチャ、そなたが我らの勇者だな。で、そっちの人族が国の勇者か。
まあ、よろしくといっておく。
迷宮の件もOKだ。
委細任せる。
それはそうと、チャチャ、」
「はいにゃ。」
「一手、手合わせしよう。」
▽▽▽▽▽
「ビャク様!お戯れを!」
蛇人族の女性がヒステリックに叫ぶ。
そりゃ、国からの使者に喧嘩売るのは常識外れもいいところなんだが、
「それ、たぶんサビラギ様の了解が取れているんですよね?」
「ほう、聡いな人族の勇者。その通りだ。」
「で、チャチャもサビラギ様に、相手して貰えと言われていると。」
「そうにゃ。」
はやく言え。
いや、聞かれなかったから答えなかっただけで、改めて聞いたらサビラギ様の考えそうなことだ。
「猫人族としての戦い方を教わっておいで。とか、そんな感じ?」
「あい。」
「なんだ、武器は駄目か。
ああ、ちゃんと書いてあるな。」
おい、ギルドマスター。
さて、ここまできたらどこまで札を明かすかだな。
サビラギ様の考えとしては、チャチャを亜人族の、特に猫科系種族の希望の星にしようという考えを持っているのだろう。
おそらく今回のことは、その一手。
で、あるなら、
「ユメニシ陛下とサビラギ様連名の書簡に記載があったかは存じませんが、秘密にしていただけるというのであれば、戦うだけではなく、本気を出させますが、いかがでしょう?ギルドマスター?」
「ほう、本気を出さなくても、その勇者は俺に勝てると?」
「いいえ、そういう意味ではございません。
その方が、サビラギ様がギルドマスターに見せたかったものが見れる。と、いう話です。」
「サビラギの姐さんが?
……よかろう。その本気とやらをみせて貰おう。
その代わり、俺も本気で行かせて貰う
白金虎の二つ名は伊達ではないぞ?」
▽▽▽▽▽
闘技場、いや、コロシアムといった方が雰囲気が近いだろうか?
サーカスの丸盆のように設えられた闘技場の回りに十分な緩衝地が設けられ、塀を立てた上で階段状の客席がそれを取り囲んでいる。
その気になれば数百人は座れるコロシアムではあるが、今回はさすがにそうはいかない。
観客席にいるのは、私とサナ、そしてミツキの3人だけだ。
そして丸盆の上に立つのは、我らが勇者チャチャと、ギルドマスターの2人、そして、立会人というかレフリー代わりにサオリさんが立っている。
高レベルでかつ勇者の私がやるのがスジではあるのだが、いざという時に【金剛結界】で、両者の身を守れるのと、サビラギ様の娘であることから、その代理として、お願いしたのだ。
ちなみに前者の理由は私達から、後者の理由はギルドマスターの方からだ。
「で、覇気がないが、その状態が我らの勇者の本気とやらなのか?」
「まさか。」
観客席からギルドマスターにそう答え、続けてチャチャに声をかける。
「チャチャ、【神使化】最大で使っていいよ。」
サオリです。
うーん、確かにお母様の考えそうなこととはいえ、ここでここまで明かしてしまって大丈夫かしら?
それとも、わたし達が思っている以上に事態は切迫している?
次回、「虎 VS 猫」
とりあえずは、怪我はともかく、命を落とすようなことだけはさせないように集中しなきゃ。