第八九九話 「最初の都市は?」
さて、ユメニシ陛下とサビラギ様の連名の紹介状だが、極めて重要度の高い公文書のため、基本的にはユメニシ陛下の手書きだ。
基本的、というのは、サビラギ様の署名が追加で入るからなのだが、なにせ、最終的には各都市ギルドから各国本国まで渡ること前提の文書なものだから、おいそれと簡素な内容とはならない。
それを12都市分、つまり12通書かなければならないという作業がこれからユメニシ陛下を襲う。
しかもペン書きの一発書きなのでミスは許されないという高難易度だ。
陛下とて、普段の公務もあるのでそればっかり書いているわけにもいかない。
せいぜい書けて1日2通くらいが限度だろうとのことだった。
なので、6日待って全部持って歩くか、2通ずつ持って迷宮を巡って戻って来るかは好きにしていいらしい。
「待ってても特にやることないッスし、明日になれば2通は手に入るんスよね?
1日2迷宮攻略しなければ、書き上げる方が早いんスから、明日から迷宮巡りしてもいいんじゃないッスか?」
「賛成!あまり、たくさんお金もっていると市場の誘惑に勝てなそう。」
ミツキの理由はもっともだが、サナの理由はそれかい!
まぁ、たしかに衝動買いしそうなイメージは無くもない。
魔力コンロ普及委員会とかつくりそうだしな、サナ。
「個人的には虱潰しに、攻略していくのが、進捗状態も分かりやすいですし、好みですね。」
サオリさんのいう事はもっともだ。
行ったことがあるからといって、淫魔法【ラブホテル】を使ってポンポンと飛び回り、歯抜けで街を巡るよりは、ここ、トラージから時計まわりか反時計回りに潰していったほうが、攻略済みの場所の把握も報告もやりやすい。
「うにゃ、じゃ、グルグルにゃ?
それともクルクル?」
チャチャが両手の人差し指を時計回しに回したあと、今度は反時計回りに回しなおす。
「グルグルの方かな。
でもその前に、ウルーシの街に先に寄ろう。
ウルキの街から時計回りでスタートだと、自分の国に勇者やプラチナの探索者が生まれたことをウルーシの街が知るのが最後になっちゃうしね。」
「良いと思うッス。
移動時間やらなんやらで、時間も稼げそうだし、トラージの街に戻るころには、もう2通紹介状も確保出来そうッスから、効率もよさげッスね。」
「じゃ、明日、紹介状を受け取ったら、さっそくウルーシの街へと向かおう。
えーと、トラージから直接向かうより、ウシトラ温泉街から向かった方が早いかな?」
「そうですね、温泉街からならウルーシへの定期便も出ていますし、それが手堅いと思います。」
ミツキだけじゃなく、サオリさんも賛同してくれたので、その案で行くことにする。
「ついては、レン君にお願いが。」
「なんでしょう?」
胸の前で手を合わせて上目遣いでそんなことをいってくるサオリさん。
かわいい。
いや、そうじゃなくて、
「せっかくだから、今晩はウシトラ温泉街に泊まりませんか?」
そうきたか。
お金を持ったら気が大きくなるのはサナだけではなかったようだ。
▽▽▽▽▽
と、いう訳で、改めて角赤亭の貴賓室だ。
コマさんには事情を話して、明日の昼頃、ウルーシの街への便を手配して貰った。
「それにしても、色々驚きですね。」
「まぁ、それこそ色々あってですよ。」
コマさんも感心しているのか、呆れているのか、微妙な表情だ。
などと、思っていたら、
「あれ?と、いうことは、皆さん、勇者パーティーとして、初めて泊まる宿は、角赤亭と、いうことになりやすか?」
まぁ、王宮には断わりを入れて、【ラブホテル】で別荘を挟み飛んで来たので、勇者になってからの初めての宿といえば、そういうことになるかもしれない。
「そういうことになりますね。」
「そういう事ならば!」
珍しくバタバタと貴賓室を飛び出し、しばらくして色紙を抱えて戻って来たコマさん。
「宿代はサービスしますので、これにサインをくだせぇ。
アサーキ共和国の勇者、ここを初の宿にする。
これは箔がつきやすぜ。」
そうきたか。
あいかわらず商魂たくましい鬼だなぁ。
▽▽▽▽▽
さて、こうなると、サオリさんはもちろん、サナも温泉漬けのエンジョイタイムだ。
なぜか、チャチャまで付き合わされている。
サオリさん曰く、これからは今まで以上に身だしなみに気を付けなくてはとのことだ。
チャチャの場合、勇者としては公表されないものの、何かの間違いかタイミングで、そのことが表沙汰になった場合、本人だけじゃなく、アサーキ共和国やユメニシ陛下の顔を潰すことになってしまう。
と、いうわけで、これを機に、改めて磨き上げるとのことだった。
それを聞いた時のチャチャの膨らんだ尻尾はちょっと見ものだったが、笑ったら怒られるだろう。
サオリさんが淫魔法を使えるようになり、淫魔法【淫具召喚】で、私の世界のお風呂グッズを召喚できるようになったので、これ幸いと徹底的にやるつもりらしい。
いつもの別荘にあるものよりは、質の良いものもあったはずなので、期待は持てるが、チャチャはそれを聞いても絶望的な顔をしていた。
まぁ、その、なんだ、頑張れチャチャ。
サオリです。
やっぱり角赤亭のお湯は最高ですね。
それに加えて、魔法で出せる、この豊富な石鹸の種類。
あとこれも美容用具なのかしら?
次回、第九〇〇話 「チャチャ係とパパ係」
とにかく、いつもカラスの行水のチャチャを思う存分、綺麗にしてあげましょう。




