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第八十九話 「金貨」


 「つまり、娘のお友達を店に出す前に身請けしたいとぉ?」

 「はい。是非お願いします。」


 目の前にいるのは娼館「リューリュ」の店主カレルラだ。

 歳は40を超えているだろう。白人族ではない様子だが、彫りが深めの顔つきに栗色の髪、赤いドレスを纏っている。

 なんか元の世界でもこんな感じのゴージャスな感じの姉妹芸能人いたな。

 娼館内の応接室にある豪華な一人掛けのソファーにどっかりと座り、値踏みするように私とサナを見ている。

 

 ちなみにミツキはもう娼館サイドの人間だというのを示すようにカレルラの横に立たされている。

 ちなみに今は眼鏡をかけていない。

 隣にはもう一人、20代前半くらいの短い黒髪でぽやーっとした感じの女性が立っている。

 

 「一度娼館の敷居を跨いだ以上、はい、そうですかどうぞ。って訳にはいかないわねぇ。」

 そういってカレルラはキセルで紫煙をくゆらせる。

 

 「横紙破りなのは重々承知していますが、なんとかお願いします。」

 「こちらとしても人気の兎人族が店に来るというので、色々と準備も投資もしていてねぇ。それを今更チャラにして横から寄越せというのなら、それなりの誠意を見せて貰わないと。」


 「誠意、ですか?」

 「言ってしまえば金だわねぇ。金貨70枚。これだけ払えるなら身請けを許可してもいいわよぉ。」

 思った以上にふっかけて来たな。


 「な、70枚。相場の3倍以上じゃないですか。

 いくらミツキが兎人族だといっても、この店の相場でそこまで初期投資しているのは有り得ないですよ。

 相場の金貨20枚でお願いします。」

 ミツキの売価が金貨25枚なのを無視して底値で仕掛ける。

 

 「あら?誠意はどこいったのかしらぁ?それにその金額じゃ仕入れ値を5枚も切ってるわよぉ。

 部屋もしつらえたし、この娘が着ている衣装だって専用につくらせたのよぉ。

 それにこれから稼ぐ予定の金額分も含んでの金額なのよぉ。」 

 仕入れ値が金貨25枚だったと暗に提示してくれたのは良材料だな。


 「金貨25枚程度の亜人用なら衣装はともかく部屋は新規に作り直したわけじゃないでしょう?

 更にそこでこれから金貨40枚以上稼ぐ?

 この店の状態を見れば、そこまで貴方に先を見通す目も商才もないようには思えませんよ?」

 

 「ふん。褒め殺しかしらぁ?。確かに実際40枚以上稼ぐのは難しいわねぇ。

 …じゃぁ金貨60枚でいいわぁ。」

 よし、値引きに乗って来た。

 第一段階はクリアだ。


 「その金額でも兎人族といっても茶兎族ですよ?それがこの店の値段設定でそんなに稼げるはずがないのは分かってますよね?衣装分上乗せするので金貨30枚でお願いします。」

 

 実際、この店は貧乏な探索者を性的に暴発させないための防波堤としての役割を持った娼館なので値段設定は他の娼館の2/3くらいなのだ。


 それだけ一般に比べ収入が少ないのにも関わらず店の状態は豪華ではないが綺麗に整えられているからには店主の商才が高いか、バックになにかついているからだろう。

 実際、公社か探索者ギルドが補助してそうだし両方なのかもしれない。

 

 「兎人族って看板だけでも物好きは来るわよぉ。50。」


 「最初は来るかもしれませんが、すぐこれじゃないって噂は広まりますよ。

 情報が命の探索者同士の間なら尚更です。

 他に兎人族がいる店がこの通りに何件かある状態で、その目付きの悪い茶兎族の娘が仕入れ値の倍まで稼げる保障は?

 こういう店ですから病気だってありえますよね?

 途中で稼げなくなるリスクを背負って無理な金額設定をするより、今現金化しておいた方が経営的に安全では?40。」

 

 「いうわねぇ。衣装代込みで45。これが限界だわねぇ。」

 やれやれという感じでカレルラはそう金額を提示する。

 

  金貨45枚か。

  現在の手持ちが金貨にして41枚ちょっと。

  あとは時間か。

 

 損はしない金額を提示して時間を稼ごう。

 「前金で金貨30枚支払いますから、10日待ってくれませんか?」


 「10日も娼婦を遊ばせておけって?5日が限度だわぁ。

 その代わり水揚げの権利はつけてあげる。それでどうかしらぁ?」

 

 ミツキの初めての相手の権利を確保できるのは水揚げまでは客を取らせないということに繋がるのでメリットだ。

 「わかりました。それでお願いします。」


 懐から前にロマから受け取った小袋を出し、中から大金貨3枚を取り出しカレルラとの間にあるテーブルに並べる。

 

 「あら?大金貨持ちなんて、もっと吹っかけてもよかったかしらぁ?

 …いえ、ギルドマーク持ちにはソレは危険ねぇ。後出しでそんなおっかないもの見せるなんて、人が悪いわぁ。」


 ギルドマスターから貰った紋章が刺繍された小袋を見てカレルラは表情を強張らせた。

 この刺繍入りの袋はギルドマスターが借りを作った相手に渡す協力の証だというのを知っていたのだろう。

 

 「なにかの抜き打ち検査なのかしらぁ?」

 「さぁ?それを言うと思います?」

 「思わないわねぇ。」


 即金払いで即身柄受け渡しが出来ない場合、一番怖いのは契約の履行がされずミツキが約束どおり引き渡されないことだ。

 虎の威でもなんでも借って釘を刺しておく。

 公社やギルドの息がかかったこの店では特に効果的だろう。


 値引きに応じない場合や金額が見合わない時にも見せようかと思ったが、最初から無駄に警戒されて取引自体がなくなるよりは、この使い方の方が手堅いだろうと温存しておいたのだ。


 「身請けの契約は成立ということでよろしいですか?」


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