第八九七話 「神殿からの帰還」
種族特性【神殿】が解け、元の部屋へと戻って来た途端、驚きの声が上がった。
驚きの理由を端的に説明すると、魔法らしきものが発動した瞬間、私達の立ち位置が一瞬で変わったから、というものだったのだが、どうやら【神殿】は、時間や空間を越えて発動するものらしい。
向こうの空間だと、少なくても1時間くらいはいたはずだが、ここでは一瞬の出来事だったようだ。
何かの時の緊急回避に使えるかもしれないと地味に考えていたのだが、そう上手くは使え無さそうだ。
いや、まてよ?
眷属を転移の際に眷属を集めるから、家族の緊急回避には仕えないことはないか。
一応、頭の片隅にでも入れておこう。
「術式が失敗した、という感じではないのう。」
「ええ、無事、地母神様に拝謁でき、また2段階、地母神様を純化することに成功しました。
このペースなら、1~2週間もかからないうちに、少なくても私達がお会いしている地母神様は完全な御姿にお戻りになられると思います。」
サビラギ様への報告にマミ先生やヤコさんが喜びに沸く。
「質問の方はどうじゃった?」
サビラギ様に代わりユメニシ陛下が聞いてくる。
「端的にいうと、二柱の神々も程度の差はあれ、宙転神の『種星落とし』の被害を受けています。
地母神様の被害が一番大きいですが、天父神様の被害も相当なものですね。」
と、この説明を口切に、地母神様からの情報を皆に改めて開示していく。
「天父神様の眷属がー新月の日にはー魔法をー使えなくなるというのはー、そんな理由だったんですねー。」
「当時は結構大騒ぎになったのじゃが、理由までは知らなかったのう。」
マミ先生とユメニシ陛下は感慨深げに頷いている。
「ただし、あくまでこれは、私達が聞いた話であり、逆にいうと、確実に地母神様が言ったと保証できるものではないはずです。
いろんな判断があろうかと思いますが、それらは是非、こちらの世界に地母神様を召喚し、ご本人から改めてご確認ください。
私達の場合は最大3つまで質問に答えていただけてます。」
私の言葉で、宗教戦争勃発なんていう状況は避けたいし、あくまでも私達が会っているのは複数体いるであろう地母神様の分身だ。
その情報すら、完全に正しいかどうかは私では判断できない。
とはいえ、私をアンテナにしてこちらの世界のことをモニターしているようなので、本体がこちらの世界に来ることが出来るのであれば、その情報収集能力も含め、各段に精度もあがるだろう。
逃げるわけではないが、何をするにあたっても、まずはあの地母神様をこの世界に召喚することが、偉い人達には一番だと思う。
「それもそうじゃの。
全部が婿どののホラじゃった、というオチはなかろうが、事実誤認の可能性もありえる話じゃ。
これ以上を知るためにも、また地母神様をお助けするためにも、儀式の準備は進めておいた方がいいだろうな。
頼めるか?マミ、ヤコ。」
「うちらも勿論手伝うけども、地母神様本体を呼ぶとなると、もっと上の話だべよ。
ユメニシ陛下、最上位の巫女と尼の手配をお願いできますでしょうか?」
「宙転神の『種星落とし』の被害が三柱に及んでいるというのであらば、是非もないのう。
国の最高位の者たちを用意しよう。」
「ありがとうーございますー。」
流石最高権力者、この世界での地母神様の召喚は問題なさそうだな。
と、そういえば
「同じく地母神様からの伝言で、儀式には私達も協力させてください。
今までの縁で、私達がお会いしている地母神様が召喚されやすくなるとのお話でした。
「なるほど、あわせて伝えておこう。」
こうして、【神殿】を使って、サビラギ様達を地母神様に会わせることは失敗したが、正攻法で地母神様に会わせる事については、一歩進展したようだ。
▽▽▽▽▽
『特殊な儀式』という名の『レベル上げ』の回数が満ちるまで、命じられた各迷宮に魔王が発生していないかを確認して回るため、皆を送りがてら、エグザルの街へと向かおうと思っていたのだが、結果からいうと、全員に帰るのを断られた。
雑にいってしまえば、久しぶりに遠いトラージの街まで来たのだから、色々と用事を足してから帰りたいとのことだ。
確かに、十二新興街の位置を時計の文字盤に例えると、8時の位置のエグザルと、2時の位置のトラージとでは、正反対の位置。
つまり一番遠い場所であり、そのうえアサーキ共和国の首都なわけだから、やりたいことも、やらねばならないことも多々あるだろう。
そんな訳で、皆に少なくても1週間は滞在すると宣言されてしまった、というか、マミ先生とヤコさんには2週間程度までなら地母神様が復活するまで、滞在すると宣言されてしまったので、最初に調べるのがエグザルの迷宮にこだわる必要が無くなってしまったので、予定が振り出しに戻ってしまった。
まぁ、まだ行ったこともない街も迷宮もあるので、そっちを優先しながら、一回りしてくることにしよう。
実際、1回行ったことのある迷宮なら、淫魔法【ラブホテル】での移動ですぐ行けるしな。
サナです。
久しぶりの皆での旅ですが、地母神様のため、「レベル上げ」も頑張らないと!
少しだけ、あたしの回数が増えちゃうことになっちゃうとおもうけど、ミツキちゃんとお母さんには許して貰わなきゃ。
次回、「手続き」
でも、1週間もかかるかなぁ?




