第八九四話 「羽根と角と」
さて、説教に思ったより時間がかかってしまったので、早速、サオリさんの授法の儀式だ。
そんなに時間がかかるなら、いつもの別れ際の個人的アドバイスのタイミングで話をすれば良かったのでは?と思わないのでもないが、『レベル上げ』時の『団体戦』も鑑みて、全員の前で話したと好意的に解釈しておこう。
「それでは始めるわよ。」
いよいよ、サオリさんの授法の儀式が始まった。
3回目ともなると、こちらの緊張も少なく、慣れたもので、前回以上にサクサクと儀式は進み、
「■■■!」
地母神様の詠唱、いや、発声?とともに、私の身体から次々と紫色の光の玉が現れ、頭の上で渦を描くように回り始め、「二人の両手を合わせなさい。」との地母神様の指示に従い、向かい合ったサオリさんに両手を差し出すと、サオリさんは、そっとその上に両方の手のひらを乗せてきた。
お互い見つめ合い、体温を感じながら、そうすることが当然かのように目をつむる。
そしてその瞬間、そのまま水平に回転したかのような感覚が走る。
サオリさんのいた場所に私が、そして私がいた場所にサオリさんが。
そう感じたかと思えば、それがもう半回転して元の場所に戻るような感覚は、なんどやっても酔いそうになる。
「終わったわよ。」
「ありがとうございました。」
気持ち悪さを抑え込みつつ、そう地母神様にお礼をいうと、サオリさんも、それに続いた。
おそらく前回と同じくらい20分くらいの時間かと思っていたが、ミツキの話だと倍くらいの時間がかかっていたらしい。
通常分と奉仕分の2種類分だもんな、さもありなん。
と、そういえば、
「頭、面白いことになってるにゃよ?」
チャチャの指摘で私と地母神様が一斉に姿見の方を振り向く。
私の方はというと、
羽根は……2枚、これは変わらず。
だが淫魔ランクは2アップから3アップに代わってるっぽい。
そして、角。
これが、片方だけ地母神様から譲り受けた形になっている。
ついでにいうと、角にも淫魔ランクアップの効果があるようで、1本で1アップするようだから、現在可能なフル装備で合計4アップするようだ。
ただ、
「ちょっと不格好になっちゃたわね。」
と、地母神様のいうとおり、折れたわけでもない片角というのは、ちょっと不自然な感じだ。
どうやら前にミツキが言ってた仮説のように、角、羽根、尻尾にはそれぞれ対応する行為があるようだな。
そういえば、
「サオリさん、『淫スキル』の他に何を覚えましたか?」
手を放すタイミングを逸してしまい、両手で恋人繋ぎをしたような状態で真正面にいるサオリさんにそう問いかける。
「え、えーと、『淫魔法』というのを覚えました。
これって、レン君、じゃなかったレインさんの使っている不思議魔法ですよね?」
不思議魔法というか、トンチキ魔法というか、インチキ魔法なのは確かだが、これをサオリさんが使えるようになったのは戦力的にデカいな。
特に、精力(気力)回復系魔法は、『金剛結界』の使用頻度に直結するので、これを私だけじゃなくサオリさん自身も使えるようになったのは良いことだ。
「なんとなく、対応する箇所と能力が分かって来た感じがするッスね。」
「地母神様の尻尾の方は、あたしの方でなんとかなるかも?」
「ご主人様、もう片方の角は、どっちが早そうッスか?」
サナとミツキの問いに対して、淫スキル【ナルシスト】で、そっち系のステータスを眺めてみる。
「サナの尻尾は、あと19回、角はサナが9回、ミツキが6回ね。」
「尻尾はともかく、角はすぐなんとかなるレベルッスね。」
「ミツキちゃんの方が多いんだ。」
「ふっふー、ママさんとの特訓の成果ッス。
それよりも、100回まであと19回って数の方が驚きッスよ。」
それな。
サナは途中から身体のサイズ的に後ろも好む傾向にあって、最近は特に後ろが多めだったが、ミツキのいうとおり、驚きの数字だ。
いや、最近の回数の多さは地母神様からのアドバイスの影響もあったのだろうけども。
ともあれ、1日12回というリミッターはついたものの、ゴールは見えて来た。
と、いうか、いつものペースなら1週間とかからないだろう。
地母神様の淫魔からの地母神への純化は順調といって差し支えなさそうだ。
サオリです。
不思議な魔法やスキルをたくさん覚えたのは良いのですけれども、その名前に聞き馴染みが無いのと、効果の内容が複雑なので、使いこなすにはしばらくかかりそうです。
次回、第八九五話 「二柱の安否」
やっぱり少し真面目に魔法の練習をした方が良いのかしら?




