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第八九二話 「角と羽根と尻尾と」

 寝室から廊下に出ると、うっすらとサオリさんの湯上がりの香りがする。


 どうやら、ちょうと行き違いになったようで、お風呂でもう1戦のピンチは避けられたようだ。


 ふぅ。


 と、その代わりにトトトトトトと台所から近づいてくる足音が聞こえる。


 「チャチャ、おはよう。」


 「ととさん、おはようなのにゃ。」


 ぺこりと頭を下げつつ、そう挨拶をするチャチャの表情は、ちょっと不満げだった。


 「なにかあったのかい?」


 「うにゃぁ……」


 チャチャの話を総合すると、朝ごはんを作ろうと起きたら、サオリさんに今日の朝ごはんは、お城で食べるから作らなくても良いのだということをいわれたらしく、手持ち無沙汰なのだそうだ。


 「それならチャチャ、今から、ととさんとお風呂入ろう。」


 「えー。」


 おっと、思ったより心に来たぞ。


 娘さんが年頃になって一緒にお風呂に入ってもらえなくなった父親というのは、このような気分なのだろうか?


 とは、いえチャチャのことだ、


 「大丈夫、ぬるめのお風呂にするから。」


 「うにゃぁ、んー。」


 チャチャは熱いのが嫌いなのがゆえのお風呂嫌いなので、これならと譲歩したが、まだ乗り気じゃないようだ。


 「ととさんと二人でお風呂は嫌かい?」

 「そんなことないにゃ!うん、一緒に入るにゃよ。」


 最後は、ちょっと意地悪な言い方になってしまったが、無事チャチャと一緒に入浴することになった。


 お風呂場に他のメンバーが乱入して、もう1回戦防止のため、という実利的な部分もあるが、最近はチャチャをサビラギ様に任せきりで、十分なコミュニケーションやスキンシップがとれてないと思っていたので、用事のない今くらいは、ゆっくりチャチャとも同じ時間を過ごしたかったのだ。


 ほかのメンバーとは「レベル上げ」と称してコミュニケーションやスキンシップは、神様呼べるくらい取ってるしな。



▽▽▽▽▽



 と、いうわけで、チャチャと、ぬるめの露天風呂でゆっくりめの入浴。


 娘さん洗いから、初めてのチャチャ一人での、ととさん洗いまで済ませながら、とりとめない話や、最近、チャチャが思っていることなどを聞きながら、ゆったりとした時間を過ごした。


 流石に前日、というか朝まで過剰な労働状態だった私の一部分は、大人しいままで、多少、チャチャの興味を引いたものの、「へんにゃの」の一言で終わったのは行幸であっただろう。



▽▽▽▽▽



 「それは地母神様に拝謁できるってことだべか?」


 「かもしれない。という程度ですね。

 術理がどうなっているのかは、私も把握していないので。」


 朝食の席で話題に出したのは、地母神様を純化させる「特別な儀式」が一段落したので、地母神様と合うことができる種族特性【神殿】という儀式で、ひょっとしたら皆も地母神様に同席できるかも?というものだった。


 今回はサオリさんが通常と奉仕の2種類で100回をこなしているので、おそらく羽根だけじゃなく、角か尻尾のどちらかも私に移管できるはずなのだ。


 で、あるならば、色々と見てもらった方が話は早いし、なんなら、残りの1枠で質問をして貰っても構わない。


 この世界にうとい私なんかより、このメンバーでなら、より真理や現状打破に必要な質問をしてくれるだろう。


 とはいえ、【神殿】の術理がはっきりしないので、確実に皆も会わせられると約束できるものではないのだが。


 現在いる場所を別空間にして地母神様を召喚しているのか、それとも地母神様がいる別空間に特別な転移をしているのか、そのあたりは未だ謎なのだ。


 前者なら皆も会える理屈になるが、後者であれば、私と眷属だけ、正確にいうと指輪をした眷属だけしか、やっぱり会えないという理屈になるはずだ。


 一応、会えない場合を想定して、地母神様への質問は、今のうちに考えておいてもらおう。

 チャチャにゃぁー。


 湯上がりぽかぽかなのにゃ。


 久しぶりに、ととさんといっぱいお話できて、楽しかったのにゃ。

 これならもっとお風呂はいってもいいにゃ。


 次回、第八九三話 「努力」


 うにゃ、お城の朝ごはんも美味しいのにゃー。

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