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第八八九話 「地母神様の変質」

 「まず天父神様の現状はわかりません。


 単に信仰を横取りされているだけなのか、それともどこかに幽閉されているのか、とくに地母神様は言及されていませんでした。


 ただ、新教が人族のためだけの教えということであれば、宙転神が加護を与えるのは、やはり人族だけでしょうから、天父神系の亜人族が今でも加護を受けられているのであれば、ある程度大丈夫でしょう。」


 「ある程度?ずいぶん煮え切らない言い方だな。」


 私の言葉にロマが首を捻る。


 「地母神様の例がありますからね、眷属に加護を与えられているからといって無事とは限りません。」


 「そんなにー酷いー状態なのですかー。」


 少しオロオロとしながらマミ先生が祈るように両手の指を組みながら聞いてくる。


 「種が卵に当って、パーンしちゃったのにゃ。」


 サビラギ様に抱っこされていたチャチャが面白い『たとえ』を出してきた。

 なるほど、卵か。

 いいえて妙だ。


 「『種星落とし』の衝撃に地母神様が抵抗した話は、先程しましたが、その際、あまりの威力によって、本来の地母神様、これを卵に例えますが、種の威力でその形を保つことができず、数多の世界へ中身が飛び散ってしまいました。」


 「でも、地母神様はちゃんと今でも加護をくれているべ。」


 「それは数多の世界の内に、この世界も含まれているからです。

 そうですね、主たる神格、卵でいうなら黄身はこの世界に残っている。といった感じですね。」


 「じゃあ、白身、つまり地母神様のお力が、他の世界に飛び散っているということか。」


 ヤコさんに続きロマの質問にうなずく。


 「ロマさんのいうとおり、お力が飛び散っている。つまり、力が中心で地母神様としての神格は低い状態で飛び散っているようなんです。


 そのため、飛び散った世界の先で融合したり変質してしまっている神格もある。


 そのうちの一つが、私と地母神様が交差した世界であり、私の力の源である、淫魔と融合した地母神様だったりします。」


 「婿殿は最初から地母神様の眷属だったと?」


 「眷属というより代理、みたいな感じですね。地母神様と融合した淫魔をただの淫魔と勘違いした召喚者が、無理やり召喚しようとしたら、間にいた私が挟まれて、中途半端に私だけが淫魔として召喚された。


 みたいな感じでしょうか?」


 今思えば、そんな感じの縁なんだろうな。

 もうちょっと早く種族特性【神殿】を使っていれば、もっと知れたことも多かったかもしれないが。


 「そもそもぉ、その淫魔というのはぁ、なんなのぅ?魔族なのぅ?」


 しばらく思案していたカレルラも話に入ってきた。


 「そうですね……」


 娘たちやサオリさんに引かれると嫌だったので、これまで明確にしてこなかったが、ここまできたら話してしまっても良いだろう。


 「この世界でいうところの魔族とは違いますが、たしかに聖なる者、というよりは闇やや魔に連なる者です。


 淫魔、あるいは夢魔とも呼ばれ、女の身体をしたものはサキュバス、男の身体をしたものはインキュバスといいます。


 サキュバスの姿で男性から精液…子種を採取し、インキュバスの姿で女性に注いで妊娠させる。という魔物です。


 「親切な奴じゃな。」


 そうかな?

 サビラギ様の感想にちょっと悩む。


 「歴史的な経緯や近年のイメージに引っ張られ、角とコウモリのような翼、矢尻のような形の先っぽを持つ尻尾を持つ姿がポピュラーです。」


 「さっきの星の根との戦いで婿殿が出していた羽根みたいなやつか?」


 「ええ、そのとおり。

 そして、あの羽根は、私の元の世界に近い淫魔となった地母神様から譲り受けたものです。」


 「「え?」」


 マミ先生とヤコさんの二人から驚いた声が上がる。


 「地母神様の力として受け取ったというより、地母神様に混じってしまっている淫魔としての部分の身代わりになった。と、言う方が正しいと思います。


 で、このことにより、地母神様の神格も一部戻ったそうです。

 神様としての純度が上がった、という状態なんでしょう。


 この後、角と尻尾もなんとか譲り受けることができれば、純粋な地母神様に戻って、『地母神降臨の儀式』で、この世界に戻ってくることができるかもしれないとのことですよ。」


 そういや、地母神様に、そのことをマミ先生とヤコさんに相談してみると言っておいて、すっかり忘れてた、というか、タイミングを逸していたな。

 サナです。


 サキュバス……たまに、お父さんが、あたしのことをサキュバスちゃんと呼ぶのはそういう意味だったんですね。


 そんなに子種、集めてるかなぁ?


 次回、第八九〇話 「性なる儀式」


 …………集めてますね。

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