第八七○話 「謁見」
コンコン
一通りの話し合いが終わり、さあ酒盛りだ!という雰囲気にサビラギ様がなりそうな絶妙なタイミングで部屋の扉がノックされる。
一応、この部屋の借り主である私が出ようと思ったのだが、単純に距離が近かったサビラギ様が、勝手に扉を開けてしまった。
まあ、今更、このホームで暗殺ってことはないだろうし、逆にあのサビラギ様を暗殺出来たら逆に凄い。
などと、思っている矢先に、ドアが開いた途端、メイドがその身体を預けるように、ぶつかる勢いでサビラギ様の胸の中に飛び込んでくる。
それはもう、ヤクザの鉄砲玉のように……って、本気で暗殺か!?
「サビラギ!やはりこっちにおった……か!?」
竜人族らしき角と尻尾をメイド服から覗かせた、女性、いや、少女?が、ポイッとサビラギ様に雑な荷物のように私の方に投げられる。
外見年齢的にはミツキと同じくらいか少し上くらい、二十歳まではいってなさそうな雰囲気だ。
もちろん、亜人族なので外見どおりの年齢ではないだろうが、まだ少女といっても許されるであろうと、いった感じではある。
そっと勢いを殺すように空中で受け取り、とりあえずお姫様抱っこで抱える。
「このいたいけな少女を投げ飛ばすなんて、勇者殿、サビラギになにかいってやってよ!」
ほら、本人曰く、少女らしい。
普通の少女でメイド姿の亜人族がサビラギ様を呼び捨てにするかい!
ついでにいうと私の事を勇者と呼ぶところを見ると……
丁寧にそのメイドの少女を床に下ろし、膝をついて礼をしながら、自己紹介をする。
「レン・キュノミスと申します。
今後ともよろしくお願いします、陛下。」
▽▽▽▽▽
「だって、サビラギの部屋にいったらいないんだもの。」
「そもそも女王陛下がお忍びで人の部屋に来るんじゃないよ!」
「仲良しにゃー。」
「そうッスね。」
「うん。」
どっかで見た流れだな。
「まぁ、仲は良いわねぇ。
なにせ姐さんの最初からのパーティーメンバーなんだから。」
そういいながら、カレルラが紫煙をたゆらせる。
できれば私の部屋では禁煙を貫いて欲しかった。
って、最初からのパーティーメンバー!?女王陛下が?あの外見で!?
「もういいわ、とりあえず混乱している勇者殿達に自己紹介くらいしなさい。」
あのサビラギ様を振り回している感のあるメイドの少女は、サビラギ様にそういわれると、改めてこちらに振り返り、メイド服のスカートをつまみ、見事な社交的仕草で礼をしながら、こういった。
「アサーキ共和国及びトラージの女王、ユメニシ・青龍・アサーキ117歳です!
よろしくね!」
「117歳!?」
「あ、そっちを驚くんだ。」
「いや、女王陛下なのはもうすでに驚きましたから。」
おもわず陛下のツッコミに素で返してしまう。
ちなみに驚いているのは、私と三人娘だけ。
サオリさんも少し驚いているが、驚き方の質が違う感じがする。
私達は存在自体に、サオリさんは何故ここに、という点で驚いている感じだな。
さきほどのカレルラの台詞から察するに、サビラギ様の最初からのパーティーメンバーと、いうことは、ロマ達とも組んだことがあるか、あるいはメンバーそのものなのかもしれない。
なにせ、普通に和気あいあいと会話してるもの。
特にあのカレルラが。
あんたそんな笑顔見せれたんかい、というくらいの仲の良さだ。
「説明を求めたいのですが、なにから説明して貰ったら良いか……」
「若さの秘訣なら、単に竜人族は長命種だからよ。
その代わりレベルが上がるのが遅いんだけどね。
サビラギに抜かれたときには、凄い悔しかったわ。」
「またずいぶん、懐かしい話を……」
「だって、元々はアタシがリーダーだったのよ!?」
「レベルよりなにより、あんたが猪武者なのが悪いのよ。」
「サビラギがそれ言う!?」
「仲良しにゃー。」
「そうッスね。」
「うん。」
それは良いのだが、長命種について詳しく。
てっきり、実質60歳までしか普通には生きられない亜人族に人族が対抗できているのは、繁殖力と長寿のせいだと思っていたが、長命種の亜人族がいるとなると、世界の成り立ちの理解が追いつかないのだ。
サオリです。
陛下には直接お会いする機会はなかったのですが、族長に就任した際、どのような方かはお母様に教えて貰っていましたけれども……。
……考えて見れば、お母様の古くからの友人ですものね。
次回、第八七一話 「竜人族」
おや?なにかレン君が難しそうな顔をしてますけど、なにかあったのでしょうか?
いや、女王陛下が自分の部屋にお忍びで来るだけで、十分、なにかあっているんですけども。




