第八六二話 「チャチャの武器」
「最後はチャチャじゃが……」
何故か少し言い淀むサビラギ様。
「ワシ的には、武器を使うよりも、【神使化】状態での【獣式格闘術】を学んで欲しいところなんじゃがなぁ。」
【獣式格闘術】というのは獣人型ならではの格闘スキルの事なのかな?
って、
「いや、そう簡単に【神使化】なんて人に見せられないものなんじゃないですか?
そもそもレベル50のチャチャまで【神使化】しないと敵わない敵なんて、そう出会うこともないでしょう。」
亜人族を含む人のレベルの上限は50。
勇者か、「神使降ろし」が使える修験者か、おそらくスキル【神使化】持ちで基本55が上限ということなので、チャチャは一応現在亜人族としてはカンスト、【神使化】持ち持ちなのでワンチャンある程度だから、それこそ魔王や他の勇者でも相手にしないかぎり、【神使化】の出番すらないのが普通だろう。
「まぁ、それはそうなんじゃけどな。」
「お婆ちゃん、新しいとんかちないのにゃ?」
「無いことはないんじゃが、とんちきなとんかちでな。」
そういって壁に飾っている武器類とは別のところ、大型の傘立てのような形の花瓶?のような陶器の筒に刺さっていた両手槌をサビラギ様は引き抜いた。
まるでゴルフのドライバーでも引き抜いたみたいな雰囲気だ。
「シンプルッスね。」
何だかんだでデザインが凝った武器が続いたので、ミツキのいうとおり、こんなシンプルなデザインの武器をサビラギ様が選ぶとは思わなかった。
ざっくりいうと、今、チャチャが持っているハンマーとほぼ同じ形状だ。
色はシルバーで柄は長く、その頭は片側が平面で、片側が円錐状に尖っている。
強いて言えば、円錐状の部分に丸い穴が千鳥に幾つも空いているくらいか。
よく見ると円錐の先端は外れるようになっているのか、ギザのピラミッドのように、というと大げさだが、さらにもう一つの円錐が先端についているようにも見える。
「勇者タクミの試作品なのじゃが、使う機会がなくてな。」
タクミといえば、ナイラ王朝の勇者だったか。
え?魔法の武器とか作れる人なの?
いや、人のことは言えないか。
とはいえ、私の場合は魔法の武器を作るというか、複製すると魔法の武器になっちゃうというパターンなので、独創性がない分、数段落ちるのだが。
「勇者タクミって別名『魔術王』だったッスかね?」
斜め上を見ながら人差し指で自分の顎をグリグリとしながら、そんな事をいうミツキ。
たしか、どこかで読んだような……といわんばかりの仕草だ。
「おお、秘密ではないものの、よく知っておるの。
見た魔術は全て解析・分解して我が物にしてしまうところから来たのが、その二つ名の由来じゃよ。
当然魔力にも詳しく、こうして魔道具なども作ったりすることもあるんじゃ。」
婿、というわけじゃないが、その間に子どもを設けた相手の話題が嬉しいのか、楽しそうに説明するサビラギ様。
要は見た魔術は全部使えるようになる勇者ってことだよね?
やばくない?
「まぁ、亜人族が使うのは全て神の奇跡の一つである魔法なので、見られてもあまり意味はないんじゃが、効果くらいは読まれるから戦うつもりがあるなら注意するといいぞ?」
いや、ほかの勇者となんて戦わないってば。
ましてやサオトメ家の親戚でしょうに、その人。
「話がそれたな、まぁ、この武器じゃが、んー、チャチャになら使ってみせた方が分かりやすいじゃろな。
婿殿、今までの武器を試してみるような空間は用意できるじゃろうか?」
今までの武器というと、弓、薙刀、レイピア、短剣、槍、ハンマー……弓がちょっとネックだが、昔行ったあの体育館ならいけるかもしれないな。
「そうですね、ちょっと試してみます。」
▽▽▽▽▽
淫魔法【ラブホテル】で繋げたのは、弓道場が併設されている体育館だ。
体育館に弓道場がくっついているというより、屋根のある屋内弓道場を包括している大きな体育館といった方が分かりやすいだろうか?
貸し切るとなると結構なお値段=淫魔ランク&魔力がかかるのだが、淫魔ランク5までくれば、これくらいなら余裕とまではいかなくても、ちょっと頑張れば用意できる。
「おお、これは良いな。」
「広いにゃぁー。」
「凄い立派な施設ですね。」
「武道場の一種なんスね。」
「え?あっちにあるの弓の的?屋内で?」
サビラギ様から始まって、それぞれ思い思いの感想を述べている。
それでは早速、試し打ちといってみようか。
チャチャにゃ!
チャチャのとんかち、ちゃんとあったにゃ!
でも、なんか普通にゃね?
ねねさんの弓や、ととさんの槍なんて、ちょっと怖いくらいなのに、これは全然平気にゃ。
次回、第八六三話 「勇者の武器」
なにがとんちきなのかは良くわからないけど、とりあえず振ってみてから考えるにゃ!




