第八四八話 「スパルタ」
チャチャのその声に合わせ、サビラギ様と同じく胸元が白く光り、黒地のワンピースだというのに、その光は先程と同じく、衣服を浸食していくかのような勢いと輝きで身体を包み込み、そのシルエットを露わにしていく。
流石にサビラギ様と比べると、身体の大きさの変化が大きく、グングンと背が伸び、身長も年齢もサオリさん以下、ミツキ以上くらいの印象に成長している。
年齢に関してはサビラギ様と同じなので、この見かけくらいの年齢が神使の、つまり亜人族としての肉体的全盛期なのだろう。
サビラギ様はチャチャの声に合わせて、とっさにワンピースの首周りに、その紅色の鋭い爪をかけていた。
おそらく急な成長の際、首が締まるようなことがあった時に、切り裂いて呼吸を確保するつもりだったのだろう。
いや、壊すつもりなら、流石に先に言ってほしい。
魔法で出した衣服だということは知っているはずなので、また出せばいいだろ?くらいに思っているのかもしれないが。
と、いうか、衣服とはいえ、魔法で出した魔法の装備扱いなので、魔法の武器でも使わないと、そう簡単に破けたりしないはずなのだが、そんな常識が通じそうにない鬼が、そんな常識が通じない神使化状態なので、あっさり切り裂かれそうで怖い。
怖いのだが、実のところ、淫魔法【コスチュームプレイ】で出している衣装は、大きさが可変だったりする。
というか、基本的にサイズ指定がないのだ。
もちろん、細かく設定すれば、大きめのサイズでゆったりに、とか、少し小さめでタイトに、とか、アレンジして着ることができるようにもできるが、基本、対象の身体のサイズに合わせて衣装が現れる。
具体的な例をだすと、私が種族特性【トランスセクシュアル】や【ペドフィリア】を使った時も、それに合わせてデザインやサイズがついてくる仕様なのだ。
とはいえ、身体の成長に合わせて、着ている服もグングン大きくなるというのもシュールな光景だな。
チャチャは白人族と白猫族のハーフなので、成長すると、おっぱいアベレージの高いこの世界の人族のように、サオリさんを超えるサイズでミツキのようなボッキュッボン体型になるのかな?と、思っていたが、そんなことはなく、むしろ全体的にスレンダーだ。
少なくとも光で透けている衣服の上から見た感じ、スレンダーといっても、さすがにサナよりは胸も大きく、ミツキよりは少し小さいくらいだろう。
お尻も小さいが、ウエストは更に細いので、スタイル自体は悪くない。
って、よく考えたら、これはチャチャが成長したらこうなる、という話ではなく、猫人族の神使が、こういう体型だという話だな。
それはさておき、チャチャの髪の色はサビラギ様のように変色せず、金糸を思わせるつややかな髪のままで、つむっている目に引かれるアイラインもそれに合わせてなのか金色だ。
チャチャの肌が白いせいか、金色でもはっきりとラインが見えるが、よく見ると極細の黒で縁取りがされているようだ。
同じような描かれ方で、チャチャの両方の頬に3本ずつ、猫の髭というより外側から内側に引っかかれた傷跡にような形で縁取りされた金のラインが描かれている。
唇は流石に同じような濃い色ではないが、色素の薄いチャチャの唇に、ラメとはまた違った感じで、淡く金色が入っているのがわかる。
金色のリップクリームというものがあるのかどうかは知らないが、それを引いたという感じだな。
唇に関していえば、サビラギ様の場合、細目の鮮やかな紅が引かれなおされた関係で、印象がだいぶ変わって見えたが、元々、薄く細いチャチャの唇は、それほど印象は変わらないものの、光を受け、キラキラと輝き、この世のものではないような美しさを感じる。
よく見ると手の爪も唇と同じような色合いに染まり、サビラギ様ほどの長さはないが、先は鋭くなっていた。
チャチャの場合は、ここから力を入れると爪が伸びるので、一概に比べられないが、「人ならざるものだ。」という印象は双方変わらない。
あまり変わらなかったのは猫耳くらいなものだ。
いや、もちろん成長に合わせて大きくはなっているのだが、特別な意匠がされることなく、内側の白いもふもふが、より白くなったかな?と思う程度だ。
いや、単純にまだ聖印が光ってるからそう見えるだけかも知れないが。
その聖印の光が収まったころを見計らい、サビラギ様が首元からその爪を抜き、チャチャの肩を掴んで自分の方に向けると、今度は頭を両手で掴み、お互いの額をくっつけ合わせた。
「来るぞ、チャチャ。耐えろ、そして聞け。理解せよ。」
そんなサビラギ様の言葉に合わせたかのようなタイミングで、チャチャの身体が大きく痙攣し始める。
いや、痙攣というには生易しい。
頭をサビラギ様の力で押さえつけられているから、この程度で済んでいるだけで、手も足も大きく震えたかと思うと、やり場のない手が振り回される。
もちろん、金に光る爪が伸ばされた状態で、だ。
サビラギ様は巧みに身体を捻り、それが刺さらないようにしていたものの、最終的には抱きつかれる形で、がっつりと背中側の両脇にチャチャの親指を除いた8本の爪が刺さってしまっている。
サビラギ様はそれを意に介した様子もなく、チャチャと額を合わせたまま、何やらブツブツと呟いている。
声こそ聞こえないものの、会話をしているのか?
サビラギ様の服に血が滲み始めたが、その大きさが一定以上広がらないのは、筋力かなにかで爪と傷を押さえつけているのだろうか?
爪が刺さったあとも、しばらくチャチャの足はバタバタしていたが、結果的に抱きつく形で落ち着いたのか、身体の動きや痙攣は収まり、チャチャ自体もサビラギ様に合わせるように、なにかブツブツと呟き始めた。
いや、これ、淫魔法【盗聴】で聴覚強化しても聞こえないということは、唇が動いているだけで声は出てないな。
何が起こっているんだ?
サナです。
えーと、まず、この【スキル】を使うの?
うん、で、次に、こっちの【スキル】。
そして、発動条件を満たすために……。
次回、第八四九話 「習得」
……ほんとにこんなので、上手くいくのかな?




