第八四七話 「神使サビラギ」
『【神使化】』
サビラギ様が【古代共通大陸語】でそう唱える。
もっとロボットアニメよろしく叫ぶ感じかと思ったが、事実を一言で告げるかのような、理性的な一言、といった印象だ。
それと同時にサビラギ様の胸元が白く光り、そこを中心に光がまるで衣服を侵食していくかの如き勢いと輝きで身体を包んでいき、そのシルエットが顕わになったかのように見える。
それと同時に、頭の先から髪先に向かってサビラギ様の黒髪が銀糸を思わせるつややかな白に染まって行き、つむっている目に紅色のアイラインが引かれ、すっと外側に抜けていき、人ならぬ印象を与えている。
サビラギ様の唇も、もともとメイクをしていないわけではないだろうが、細目の鮮やかな紅が引かれなおされ、色白の肌はそのままに、かなり印象が変わって見えた。
人形のようなメリハリのある印象的な姿ながら、生命力と魔力に満ちた姿。
よく見ると手の爪まで紅色に染まり、その鋭さだけで、「ああ、人ならざるものだ。」と誰もが感じ、先端が赤、根元が白のグラデーションで、元の大きさより更に大きく、太く伸びた角が、この生き物、いや、一柱が鬼であると理解させられるだろう。
「ふむ。」
「ど、どうですか?」
はたから見ると【神使化】が失敗した様子はない。
というか、【神使化】自体を見るのが初めてなのだから、判断のしようがないのだが、少なくても暴走している様子もない上で、姿かたちが明らかに変わっているのだけはわかる。
「むしろ良い。」
目を開けたサビラギ様がそういって笑顔を見せる。
あれ?瞳も赤くなるんだな。
「神使の神たる力が、【鬼俗語】での宣言のときよりも、【古代共通大陸語】の方が、各段にスムーズに降りて来た印象じゃな。
古い言葉の方が通じやすいのか、はたまたほかの意味を含んでいるのかは分からんが、これならば、チャチャの負担も少なかろう。」
そういいながらも、手を握ったり開いたり、すり足での足の動きを確かめているサビラギ様。
こういっちゃなんだが、うぉ! 【神使化】してめちゃくちゃ強くなった!怖い!
といった印象は、残念ながらというか、期待外れというか、ぶっちゃけない。
ああ、白くなったな、あと、ちょっと若返ったっぽい。
みたいな感じだ。
年齢的にはミツキ以上、サオリさん以下といったところかな?
相変わらず亜人族の見かけの年齢はよく分からないが、おそらくこれが始祖神と同じ姿の年齢、つまり、全盛期の年齢なのだろう。
「ちなみに今のサビラギ様は、どういった状況なんですか?」
「ん?これか?
そうじゃな、先ほどの映像での地母神様の説明風にいえば、【神使化】ランク5じゃ。
始祖神が使える力は全て使え、そのうち5つの能力をランク5のものとして扱える。といったくらいの説明がわかりやすいかの?」
スキルじゃなくて能力という言い方をしたということは、魔法も含むのか。
【神使化】が最速でランク4から使えることや、自分自身で鍛えたスキル以外をランク5で使えることを考えると破格の能力だな。
「ちなみに【神使化】はランク5が最大なんですか?」
「いや、そんな事はないが、これ以上のランクだと少なくてもワシの場合、服の問題が出て来てな。
この服のサイズで再現できる最大がランク5で、力としても安定しているという事じゃ。
同じ理由で、ランク1も無理、というか遠慮したいところじゃの。」
なんとなくこのランクまでの【神使化】なら、普通に本気だしたサビラギ様の方が強いといわれているような印象を受けるが、とりあえず【古代共通大陸語】での【神使化】は可能な上、サビラギ様曰く、発動がスムーズらしいので、さっそくチャチャにも稽古を付けてもらおう。
そんな考えが顔に出ていたのか、サビラギ様が、ちょいちょいと手招きしてチャチャを背中から抱き寄せる。
「それではチャチャ。」
「あい。」
「本来であれば、神使たる獣人から、どれくらいの力をお借りするか強く念じてから、【神使化】と唱えるものだが、あまり深く考えることはない。」
「あい。」
「強くなりたい。とだけ強く念じた後、【神使化】と唱えるが良い。
あとはワシらがなんとかする。」
「あい。」
ちょっとまって!?
ランク1から順々に練習すると思ってたけど、それだと、いきなりマックスのランク4の【神使化】で発動しない!?
スパルタ過ぎない?神様の使いの力ですよ?
「チャチャも強くなるにゃ!
『【神使化】』にゃ!」
力の源が聖印を授かった額にある自覚があるのか、それともそこからの光から目を守るためか、眉毛にそった敬礼を両手でするような恰好で、チャチャが【神使化】を宣言した。
サオリです。
サナとミツキちゃんが、なにやら変わったことを話し合っています。
え?わたしは、立ち寄らない方がいい?
なんで?
次回、第八四八話 「スパルタ」
んもう、二人ばっかり……。
いいわ!わたしも頑張って次の謁見では、なにかお力を賜るから!




