第八三八話 「勇者の証」
「この辺りは、たしか先達がいるはずだから、信頼できる相手に相談してごらんなさい。」
そういって、地母神様は右目を隠していた掌を戻し、こちらに向き直る。
「さて、残りの時間が少なくなってきているけど、最後はどうする?」
どうするもこうするも、回数を満たしているミツキの授法の儀式は終わったし、私の、そして偶然だがチャチャの勇者への帰依の儀式も終わっている。
チャチャの帰依も含めて3回と数えずに、もう1カウントお願いできるのなら、ここは当初の目的を目指すべきだろう。
「地母神様の勇者である、という分かりやすい証をいただくことは出来ないでしょうか?」
▽▽▽▽▽
種族特性【神殿】を使う前に、チャチャが言っていた、私が勇者である事は「地母神様、本人にしょーめーして貰えばいいのにゃ。」というやつだ。
最初は、必要に応じて地母神様を【神殿】で呼び出して、と考えたが、そもそも、【神殿】自体が、地母神様をこの世界に呼んでいるのか、あるいは、地母神様のいる世界に私達が飛んでいるのか、または、淫魔法【ラブホテル】のように、別の空間が作成され、そこに両方が集まっている形なのかがはっきりしないため、無理だろうと思っていたのだが、チャチャの考えていることはもっと単純明快なことだった。
「チャチャ、かかさんと、ねぇねにお勉強見て貰った時は、花丸と名前書いて貰ってるにゃ。
そんな風に地母神様に書いて貰えばいいのにゃ。」
チャチャが今勉強しているのは【鬼族語】と【大陸共通言語】。
てっきりサオリさんだけが教えているのだと思ったが、ミツキにもチェックさせていたのか。
隠し里独自の表現や方言があるかもしれないことを考えると、正しい選択ではあるな。
それに習って、花丸を貰って名前を書いてもらう、とまではいかないものの、一目で地母神様の加護を受けていると分かるものがあれば、他の神ではなく地母神様の勇者であるという証明が楽になるだろう。
どうせ勇者かどうか自体は人物鑑定系のスキルで調べられるだろうしな。
「地母神の勇者である証明ねぇ……そういっても、勇者に帰依させたなんて初めてだし……。
んー、聖印じゃ駄目かしら?」
「せいいん?」
「あ、あの、レインさん、聖印というのは……」
▽▽▽▽▽
言葉の意味を分かっていない私にサオリさんが聖印について解説してくれた。
言葉の意味としてはおおきく2つ。
まずは、地母神様自体を表す紋様、あるいはそれを御璽、つまり簡単にいえば豪華なハンコ状態にしたもの。
主に社が使うものだが、王家や族長も使うことがあるらしい。
というか、これを持っていることが族長の証なのだそうだ。
漢委奴国王印を思い起こさせるな。
で、2つ目の意味は聖痕のようなもの、と、捉えると分かりやすいかもしれない。
つまり、地母神様自体を表す紋様が身体のどこかに現れる現象で、入れ墨や焼き印などと違い、魔力を込めると光るので偽装もできず、かつ、地母神様から直接加護を受けたという印らしい。
本来の帰依の儀式や授法の儀式は地母神様の力をお借りして氏神様を呼び出し、氏神様は、対象者の祖先を模した身体で現れ、職業や技術を受ける。というものだが、それを何段階も飛び越して、直接地母神様自体にお会いし、認められた証というのが、聖印の2つ目の意味らしい。
なので地母神様のおっしゃってる「聖印じゃ駄目かしら?」というのは、後者のことを指すのだろう。
サオリさん曰く、非常に名誉、かつ、神聖なことで、実際に地母神様の聖印を身体に持つものは数えるほどしかいないそうだ。
そういや、サオリさん、族長になる前は僧兵だったんだから、当然、そういうことは詳しいよな。
いや、元族長だから詳しいのかもしれないが。
「では、それでお願いします。」
「おっけー。で、どこに付ける?」
そんな神聖なものなのにノリが軽いな地母神様。
「ちなみに普段は見えないけど、魔力を込めた時だけ見えるような付け方は出来ます?」
「できるわよ。と、いうか、それが普通ね。
たまに熱狂的な子が普段から見える状態で欲しがる事があるけど。」
流石、地母神様に直接拝謁できる人たちは奥ゆかしい人の方が多いらしい。
「じゃあ、私達もそれで。」
「私達?ああ、猫の仔にも必要なのね。」
こうして、私とチャチャの二人は地母神様の手ずから聖印を賜ることになった。
サナです。
お父さんは無事、予定通り地母神様の勇者になれたけど、ちーちゃんまで勇者になっちゃった。
……あたし達も勇者になった方がいいのかなぁ?
と、いっても、そう簡単になれるものじゃないんだろうけど。
次回、第八三四話 「聖印」
でも、地母神様、頼んだら「いいわよー。」とか、いってくれそうな感じはしますよね。




