第八三七話 「勇者の眷属」
「あのー、ちょっといいッスか?」
このままだと埒が明かないとでも思ったのか、ミツキが手を上げながら発言した。
「ん?ミツキ、どうかしたの?」
未だテンションの高い地母神様を引き離し、ミツキの方を見つめなおす。
「なんか、アタシ、ランク上がったような感じがするんスけど、どうなんスかね?」
困惑したような顔でそんなことを言い出すミツキ。
と、思ったら、
「え?ミツキちゃんも?」
「わたしもそんな感じがしますね。」
「チャチャもちょっと変な感じにゃ。」
と、ほかの皆も後に続いた。
羽根が出て、淫魔ランクが上がったせいかな?とも思いながらも、淫スキル【性病検査】で、いや、もっと詳しく【ナルシスト】の方でチェックしてみよう。
えーと、どれどれ……
▽▽▽▽▽
「端的にいうと、ランクは上がってないけど、私と同じように皆の全ステータスも1ランクアップしているわね。
あと、私がこの羽根を出している間は、淫魔ランクが2上がった状態になるわ。
と、こっちの方は、今のところサナとミツキしか関係ないわね。」
「えーと、アタシ達は淫魔の眷属だから、ご主人様がより淫魔に近くなると、影響を受けるってのが後者ッスね。
で、前者はもしかして、淫魔の勇者の眷属だから、アタシ達のステータスにも影響が出た、ってことッスか?」
ミツキが目をつむりながら、額の斜め上を人差し指でグルグルと撫でまわしつつ、そんなことをいいだした。
仮説としては面白い。と、いうか、それくらいしか原因が考えられない。
「思ったより、地母神様が淫魔と交じり合っていたのかもしれないわね。」
「加護がついたなら良いじゃない。」
って、地母神様はわりと軽いな。
最悪、全員の職業が上書きされて、勇者になっているかもしれないと思ったが、流石にそんなことはなく、元の職業のままだった。
そう、元の職業があるものは、だが。
「地母神様、ちょっと問題が。」
「ん?まだなにかあるの?」
「チャチャが、いや、チャチャも私と同じ勇者になっています。」
「うにゃ?」
「え?」
「「「えーーーーっ?!」」」
▽▽▽▽▽
「どの職業にも帰依してなかったから、地母神の力で染まってしまったのかしら?」
「どちらかというと、ステータスの事も考えると、私を勇者にする力が眷属にも流れ込んでしまった、という方が正しそうですね。
で、無垢なチャチャはそのまま勇者として染まってしまったみたいです。」
想定外のトラブルに鏡合わせの同じポーズで地母神様と一緒に頭を悩ます。
「勇者としてのスキルは【神使化】のようね。ランク4だから、結構なものよ?」
神使化って言葉は、前に聞いたことあるな。
ヤコさんがいっていた、各種族の始祖神をその身に降ろす儀式のことだっけ。
チャチャが前に薬の影響で化け猫化したのも、その儀式の応用だったのでは?という仮説を話していたな。
「具体的には、どんなスキルなんですか?」
「そうねぇ。」
地母神様は 右目を右の手のひらで隠し、すうっと、チャチャを見つめた後、ぽつぽつと話始める。
「【神使化】という名前だけども、実際に始祖神が降りてくるスキルではないわね。
始祖神の力を借りることができるスキル。と、いった方が正しそう。
ランク1では「獣化」。
これは2種類の能力があって、始祖と同じ猫になれる能力が一つ。
もう一つは、猫の姿で戦える状態まで大型化できる能力ね。」
後者はつまり、以前チャチャがなった化け猫化か。
「ランク2では「獣人化」。
始祖神の姿と力の一部を身体に降ろし、武器も防具も持たなくても戦えるほどの力を得るわ。
ただし、身体の大きさはそのままね。
これに対し、ランク3では「最適化」。
始祖神の姿と力の一部を身体に降ろすのは一緒だけども、その力を十分に発揮できるように、身体が獣人化以上に変化するわ。
具体的には始祖神と同じ姿の年齢まで、成長、あるいは若返る。
この娘なら大人の身体になる、あるいは大人の身体の獣人になる。という理解で良いと思いわよ。」
ランクが上がるほど、力の許容量が上がるのか。
「そして、現在のランク4「神使化」。
そのレベルはともかく、始祖神が使える力は全て使えるようになるわ。」
「全部?!」
「ええ、その始祖神が眷属を帰依させることができる職業、その全てにかかる武器や魔法、スキルなど諸々の能力ね。
そこまで使わなくても、このランクまであれば、単純にステータス向上分で、一般の勇者と戦えるレベルよ。
物理的な能力は獣人の姿の方が強いけど、魔法なら亜人族の姿のままの方が使いやすいかもね。」
チャチャの就職問題には一時期、頭を悩ませた事があったが、まさか勇者になるとは……というか、対勇者用の亜人族の秘匿儀式を覚えた状態だな。
いや、宙転神の勇者と戦う地母神様の勇者としては、むしろ正しいのか?
サオリです。
神使を降ろす儀式は、そのものが秘匿され、現在では使える者もいないと噂されるくらいの儀式なのに、こんな偶然で……。
いえ、神使どころか、その上の地母神様のお力をもってすれば不可能ではないのでしょうが……。
次回、第八三八話 「勇者の証」
それにしても、勇者が2人になってしまって、お母様の計画とか大丈夫なのでしょうか?




