第八三二話 「族長のお仕事」
「台本通りに進む物事などそうそうありゃぁせんよ。
関係する人数が多ければなおさらにな。
だから根回しが必要なんじゃ。」
悪びれもせずサビラギ様がそういって笑う。
「そうはいっても、ミナちゃんは、まだ13歳ですよ?厳しすぎませんか?」
「ああ、思ったとも、サオリの時は痛感した。しかしな、婿殿。
婿殿にはバレたらしいからいうが、ミナは転生者じゃ。
26の歳で、こちらの世界に転生しておる。
と、なれば、年齢でいえばサオリの一つ下じゃ。
多少厳しくても当然じゃろう。
なにせ、こちらで過ごした時を合わせれば39じゃぞ?あやつ。
孫がいてもおかしくない歳だからな?」
「あー。」
サナと同じ年齢、近い外見で考えていたが、言われてみればサビラギ様のいうとおりだ。
っていうか、転生してきた元の時代も転生した時期も私よりかなり前の上に、累計年齢も1歳しか違わないのであれば、これはもう先輩といっても構わないのではないだろうか?
などと、どうでもいいことをかんがえていると、
「それにしても黒の嫗様には助けられた。
上手くミナに二人を預けて貰えたでな。」
「ああ、そういえば、シロツメさんは白家、カタバミさんは赤家と、それぞれ実家に預けられるものだと思ってました。」
そういや台本にもその辺りは書かれてなかったが、当初はそういう話だったはずだ。
「まあ、それも筋の一つではあるんじゃが、それは身内贔屓で手緩いという奴も出てくるでな。
あとは、各家の戦闘力の分散の意味もある。」
「戦闘力の分散?」
「簡単にいうと、赤家に戦力が集中すると里が荒れやすく、白家に戦力が集中すると、早乙女家の力が弱まるのじゃよ。」
本来は白家が白鬼族を治めるのが筋じゃからな。と、サビラギ様は小さな声で付け加えた。
「それに加えて、明後日、ワシも里を出ることになる。
サナブリ様にも後は頼んではあるが、サナにほどミナには甘くないからの、あの方は。
と、なれば、ワシが外れ、二人がそれぞれの家の戻るとなると、里の天秤が大きく傾くことになる。
力のない族長のいうことをきちんと聞くものばかりではないんじゃよ。
そうなれば、苦労をするのは力のない族長はもとより、調整役の青家や黒家じゃ、故にミナの経済奴隷として二人を認めさせたのであろう。
二人の強さは、放っておいても赤家の家守あたりが、手合わせしようとでも言い出して明らかになるであろうし、そうなれば一大見世物だ。
外で鍛えた赤帯の力は露わになり、その力を最低1年は族長が使えることを誰もが理解するであろうな。
そうなれば族長ミナに逆らう者もグッと減るであろう。」
「もしかして、黒の嫗様にも根回ししてました?」
「もちろん、青家の嫗様にもな。
黒の嫗様のお言葉は、おそらく青家の嫗様の入れ知恵じゃろう。
経済奴隷として自分の家で囲いたくばその分の金を里に払え、というのは、いかにも青家がいいそうだが、青家がいうと逆に角が立ちそうなところを、黒の嫗様に言わせることにより、赤の家守と今回立場が悪い白の嫗を牽制した。と、いうところじゃな。」
「と、いうことは、ミナちゃんが、あの判決を言い渡すのをみんなが全部読んでいた、ということですか?」
「そこまではいわんが、以前、婿殿も聞いたじゃろ?1年か3年程度、それぞれの本家の奴隷刑となるということで、手打ちになる予定だったと。」
そういえば、そんなことをいってたな。
で、その刑を献上金でチャラにするという話だったはずだ。
「赤帯の1年の減刑が200金貨、いや、二人だから一人当たり100金貨では、安すぎる。と、ミナは考えるだろうな、とは思っておった。
あやつは金の勘定に明るいからな。
当然、青家の嫗様もそう考えるであろう。
実際、ミナも青家の嫗様に相談にいっておったようだしの。
逆に赤帯の経済奴隷の相場なんてものは青天井じゃ、そもそも軍なら大隊長クラスが身売りなどせんからな。
もしも異議が出て、求刑が3年になったとして、当初予定になるべく近い着地地点を選ぶなら、ミナならああするだろうな。と、ワシと青家の嫗様は読んでいて、もしもの場合は、と、黒の嫗様にお願いしてあった。
その程度の話じゃよ。」
ああ、なんというか、ミナちゃんも大変だっただろうけど、族長のお仕事って大変なんだな。
チャチャにゃー。
おっいなっりさんをっつっくるのにゃ。
ねねさんのねねさんじゃないねねさん、凄いのにゃ!
豆からこんな袋つくったんにゃって?!
次回、第八三三話 「勇者の証」
まるで魔法みたいにゃ。




