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第八三一話 「求刑」

「理由はあれど、3年勝手に里から離れていた罰が、1年の奴隷刑じゃ、帳尻が合わないのではないかい?


 6年とはいわないが、3年間に対する求刑はやはり3年間だとおもうけどね。


 それともそれを埋める対価でも保証できるのかい?」


 声の主は『碧拳』の二つ名を持つサナブリ様。


 サオリさんから見て叔曾祖母そうそしゅくぼ、簡単にいうとサビラギ様の大叔母、つまりお婆ちゃんの妹にして【格闘】のお師匠さんだ。


 治療以降も元気そうでなによりだが、ここでこうくるとは思わなかった。


 ちなみにサビラギ様から預かっている詮議のシナリオには、このパターンは想定されていない。


 なので、ミナちゃんが、何度カンペの合図に唇を鳴らしてもアドバイスはできない。

 私のアドバイスでは族長としての判断とは異なるだろうからだ。


 『想定外、台本に無し。』と返すしかないのだ。


 当然、集会広場にいる皆の視線はサナブリ様に集まっており、シロツメとカタバミも振り向き、サナブリ様を見つめている。


 サビラギ様の信奉者である二人なら、その【格闘】の師匠でもあるサナブリ様にも思うところはあるだろう。


 「サナブリ様のおっしゃること、一々ごもっとも。

 我ら二人とも、1年であろうと3年であろうとも罰は謹んでお受けいたします。」


 そう口を開いたシロツメの言葉も若干緊張が見える。


 「その上で、我らとて、空手でおめおめと戻って来たわけではございません。

 この3年の成果は、全て里へと献上させていただきたく考えております。」


 シロツメに続き、カタバミがそういって、傍らの包みからワインでも入っていたかのような横長の箱を取り出す。


 目配せでそれに気づいたサオリさんがカタバミに近寄り、それを受け取ってから、もとの場所へと戻り、中身を確認した後、隣に立つ青家のおうなへと渡した。


 青家の嫗は、箱の中身を改め、「金貨にしておよそ200枚以上。」と、声を発すると、集会広場に集まっている人々から、おおっ、と、小さな歓声が上がる。


 結果的に詮議のシナリオとしては本来の流れに戻ったようだ、四家の長の目がミナちゃんに集まる。


 「シロツメ、カタバミの両名に問う。

 これはそなたたちの全財産と考えて良いか?」


 「然り。」

 「もっとも装備品を抜かして、となりますが。」


 ミナちゃんの問いに答える二人と、それを聞いて小さく頷くミナちゃん。


 「異議を認め、二人を改めて3年の奴隷刑とする。

 さらに追加として1年の経済奴隷を命ずる。


 但し、経済奴隷としての評価額と、献上された金銭をもって3年の奴隷刑については相殺するものとし、差額については両名に返還するものとする。


 なお、献上金については、かねてから懸念されていた里の補修費に充てるものとすする。


 如何いかに?」


 つまり、200金貨あっても保釈金、いや3年の刑期に相当する罰金額としては足りないので、1年間、経済奴隷として身を売って貰う。


 経済奴隷は当然能力に応じて販売額が大きく変わることから、ランク4の二人を経済奴隷として評価するなら、かなりの金額となるだろう。


 それらを合算した上で、3年分の罰金額を払うことにより犯罪奴隷を免除、代わりに1年間の経済奴隷という形で罰を与えるとともに、金額的に里への貢献を分かりやすくしたという形にした上で、差額分を当面の生活費に当てさせる。ということだな。


 ちなみに、これ、すべてミナちゃんのアドリブである。


 本来、里が経済奴隷を買う際に払わなきゃならない金額自体は罰金額と相殺することで、現金自体の動きを発生させることなくしているあたりが、前世の簿記の経験が生きている形だ。


 「赤家は里の戦力として1年の経済奴隷に同意する。」

 「青家は里の補修費への補填について同意するとともに、経済奴隷としての価値と献上された金額、その他の積算に責任を持つとともに、1年の経済奴隷に同意する。」


「黒家は両名を里の経済奴隷としての立場とするならば、族長、ミナ=サオトメの奴隷とすることを条件に1年の経済奴隷に同意する。

 ただし、両名の所属する赤家、白家が同意しない場合は、それぞれの家から経済奴隷としての買取額を里に支払った上で、両家の経済奴隷とすることを認める。」


「赤家はカタバミ=シャクの族長預かりを認め、黒家に同意する。」


「白家もシロツメ=ハクの族長預かりを認め、黒家に同意するとともに、1年の経済奴隷についても同意する。」


 「一件の異議、一家の提案、四家の同意を得て、早乙女家はカタバミ=シャク、シロツメ=ハク両名に経済奴隷として1年の刑を命ずる。」


 「異議なし。」

 「異議なし。」

 「異議なし。」

 「異議なし。」


 「以上をもって、詮議を終了し、刑の執行を行う。四家の長においては、引き続き隷属の儀式をお願いしたい。」


 こうして無事、詮議が終わり、ミナちゃんにやっとほっとした顔が戻った。


 「時に婿殿。」

 「いきなり現れないでくださいよ。驚くじゃないですか。」


 いつのまにか、私の潜んでいる集会場の屋根の反対側にやってきていたサビラギ様に声をかけられた。


 「いうほど驚いてはいないではないか。」


 まあ、レーダーあるしね。


 「先ほどの案は婿殿の口入れか?」


 「違います。純粋にミナちゃんの実力ですよ。」


 ちょっと余計なことはしなかったか?というような圧力を感じたので正直にそう答える。


 「ならば結構。うむ、ミナも一皮むけたようじゃな。

 サナブリ様にお願いしたかいがあったというものだ。」


 「仕込みだったんですか、あれ!?」

 サナです。


 自分たちが詮議を受けていた時は、檀上の方々の視線しか気にならなかったけど、こうして受ける側を見ると、自分を見ていないと分かってはいても、里の人たちの視線が気になって緊張しちゃいます。


 ミナはいっつもこんな緊張と戦っていたんだなぁ……。


 次回、第八三二話 「族長のお仕事」


 ところで、お婆ちゃん見当たらないけど、どこにいったんだろ?

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