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第八三〇話 「耳元で」

 「ひぁ、なにこれ?」

 「なんじゃ?なにが起こってるんじゃ?」


 今使っているのは淫魔法【ASMR】。


 発した言葉に【鎮静】あるいは【興奮】の効果を与え、【交渉】または【性技】に対して淫魔ランクに応じたボーナスを得る。あるいは対象に指定した幻聴を聞かせる魔法だ。


 前者は耳元で囁かないと効果が発動しないが、後者は他の淫魔法と同じ射程なので、遠くから次の台詞や指示などをミナちゃんの耳元に囁くことができる。


 「また、婿殿は器用な魔法をもっておるのぉ。」


 魔法の効果の説明、もちろん後者の方だけを説明すると、サビラギ様にはちょっと呆れたような顔をされたが、ミナちゃんは、その説明を聞いてちょっと緊張が解けたような様子だった。


 全部暗記しなきゃならないところに、プロンプターが設置されたようなものだからな。


 ミナちゃんの前世の世代的にはカンニングペーパーが手に入ったという方がイメージに近いかもしれない。


 一応、試しにとサビラギ様にもかけてみる。


 「なるほど。これならミナが多少忘れてもなんとかなりそうじゃが……」


 「なにか他に問題が?」


 「当事者じゃないかぎり里の者以外は詮議に参加できんぞ?

 どこから伝えるんじゃこれ?」


 え?そうなの?



▽▽▽▽▽



 結局のところ、ミナちゃんの使う口紅に私の血を混ぜ、それを触媒に淫魔法【盗聴】で、ミナちゃんの状態をモニターしつつ、魔法の届く範囲内に潜んで、ピンチになったら【ASMR】で助け舟を出す、という形に落ち着いた。


 淫魔ランク5になった今、魔法の射程も相当伸びているので、集会場の屋根の裏側にでも隠形スキルでもある淫スキル【夜這い】を使って隠れていよう。


 あそこくらいの距離なら、直接詮議のやり取りも聞こえるだろうし、ヘルプが欲しい時には、唇を軽く鳴らすようにミナちゃんにも伝えてある。


 そうこう打合せをしているうちに、サオリさん達が集会広場についたのか、早乙女家にも族長を呼ぶ者が来たようだ。


 サビラギ様から詮議のシナリオを預かり、一足先に【夜這い】を使いながらも集会場を目指そう。



▽▽▽▽▽



 集会場の屋根の上から覗く限りでは、大きな騒ぎにはなっていないものの、結構な人数が集会広場には集まっている。


 私達が里に訪れた時ほどではないものの、100近い里の人たちが集まっており、サオリさんとサナはシロツメとカタバミの前に立ちはだかり、二人を守るような恰好になっていた。


 聞こえてくるのはシロツメとカタバミを批判する声ばかりだが、逆に擁護するような声も聞こえるので、状況はいうほど悪くないだろう。


 前者はどうしても声が大きくなりがちだし、それに対して少ないとはいえ擁護の声が上がるほど友好的な陣営もいるのであれば、あとは許されるかどうかは条件次第だ。


 そんなことを考えているうちに、ミナちゃんと四家の長老が集会広場に現れ始め、それにともなって、里の人たちも静まっていく。


 集会場にミナちゃんを頂点として逆Vの字状に四家の長老が立ち、そこから二歩ほど引いた場所にシロツメとカタバミが並んでこうべを下げ片膝をつき座る。


 この時点でサオリさんとサナの出番は終わったと思ったのだが、そのまま逆Vの字の左端にサオリさんが、右端にサナが続いて並んで立っている。


 位置的にはシロツメとカタバミの真横にもあたる位置なので、何かがあった時の保安要員を兼ねているのかもしれない。


 「シロツメ、カタバミ、両名、面を上げい。

 これより二人の緊急詮議を執り行う。

 まずはシロツメ、状況を述べよ。」


 凛としたミナちゃんの声で、こうして詮議が始まった。



▽▽▽▽▽



 詮議自体はスムーズに進んでいる。


 二人はケイジョウに騙されていたこと。

 結果、メヒシバは迷宮で命を落としたこと。


 二人は邪な気持ちではなく、「若き日のサビラギ様にあこがれて」里を出て、武者修行に出たつもりであったこと。


 などなど、シロツメもカタバミも思いのたけを吐き出すように訴えかけ、ヤジなどはないものの、それに答えるように聴衆の中にも色々な反応を示すものが現れ始めた。


 メヒシバへの同情や、若き日のサビラギ様にあこがれて、というのは、一部の里の人たちの心に響いたようだ。


 ちなみにケイジョウはそのまま大聖神国街に居残っている()()で話してあるし、イズライト元枢機卿の話は完全にオフレコだ。


 二人の訴えが終わり、そして一拍。


 小さくミナちゃんが頷き、口を開く。


 「サビラギ=サオトメが里を離れた事と本件については、時代も状況も違うと早乙女家は考える。


 しかしながら、二人はケイジョウに騙された被害者であることと、武人としての心意気については、情状酌量の余地があるとも早乙女家は考える。


 よって、二人を1年の奴隷刑とし、その間の里への貢献をもって最終的な判断としたい。


 いかがか?」


 「異議なし。」の言葉が次々と四家から上がり、順番的に最後の発声となる白家のおみなが口を開こうとしたであろうその瞬間、


 「異議あり!」


 集会広場の中から、声が上がった。

 サオリです。


 ミナも立派に族長の役割を果たして、ちょっと感慨深いですね。


 里の人たちの反応もそれほど悪くはないですが、でもまだ少し納得がいっていない人も多そうな雰囲気です。


 献上金の話まで進めば、もっと反応も柔らかくなりそうですが……。


 次回、第八三一話 「求刑」


 え?この声は?!

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