第八二八話 「お出かけ組」
『あ、そういえば、お父さん。』
そんな事を考えていると、不意にサナからの念話が飛んできた。
『こっちのお昼、アエ姉さんと一緒に、お稲荷さんつくるんだけど、そっちのお昼ご飯、少し遅くなってもいいなら、多めに作って持っていくけど、どうかな?』
おや、昼食もミツキとチャチャのコンビかと思ったら、そういうつもりだったのか。
出る時に言ってなかったのは、メニューが決まってなかったからかな?
『ああ、いいね。じゃあ、みんなにも、その旨、伝えておくよ。』
『はーい、わかりましたー。』
サナとの念話と、ついでに掃除が終わった後、勉強中のチャチャとミツキ、チャチャに【鬼族語】を教えているサオリさんに、サナからのメッセージを告げた後、それぞれの進捗状況を聞いてみた。
チャチャの方は【鬼族語】の会話の方はもうバッチリだ。
聞く方は難しい言葉や話だとまだ難はあるが、日常会話くらいなら問題ない。
話す方は、もともとチャチャ自体が難しい言葉を使わないので、こちらもあまり問題ない。
読み書きの方だが、読む分には問題ない。
鬼族語は表音文字らしく、読めればそれだけ喋れるようになるので、早乙女家から借りた絵本が功を奏した形だ。
いまは書く方を頑張っているようだが、器用なチャチャのことだ、ここまでくればそんなに時間もかからずにスキルとしての【鬼族語】を習得できそうだな。
ミツキの方はというと、暗記がメインなので、あまり長い時間、根を詰めると煮詰まってしまうのだそうな。
ちゃんと出来ているかどうかは私が鑑定してあげるから、実際の調合もやってみたら?とアドバイスをすると、「あー、それはちょっとアリっスねー。」と、ミツキのお薬辞典をパタンと閉じて、調剤器具の選定に入り、とりあえず洗浄するためか何個かの器具を台所の方へと運んでいった。
▽▽▽▽▽
『お父さん、そろそろ帰れそう。』
『おや、早かったね。』
ミツキの作った傷薬の鑑定をしているところにサナからの念話が入る。
時刻は、まだ10時にもなっていない。
なんでも儀式が思いの外スムーズに進んだからなのだそうな。
『それじゃ、一回、早乙女家まで迎えに行くよ。』
『はーい、お願いしまーす。』
「またサナちーから念話ッスか?」
「ああ、もうそろそろ帰れそうだっていうから、迎えにいってくるよ。
って、よく念話中だってわかったな。」
「パパ、念話中は、なぜか斜め上の方を見つめてること多いッスからね。
なんとなく分かるッスよ。
お迎えは了解ッスけど、傷薬の出来はどうッスか?」
私の癖のことは得意げに語るわりには、薬の出来については不安があるらしい。
淫スキル【淫具鑑定】によると、ちゃんと軽度の止血効果と若干の体力回復効果が見込める傷薬になっている。
「うん、ちゃんと効果が発揮できる出来になっているよ。たしたもんだ。」
そういって頭を撫でると、ミツキはやったッス!と小さくガッツポーズをした。
なんでも上手く出来たら鍛錬所に寄付しようと思っていたらしい。
うん、それは良いアイディアだな。と更にミツキを褒め直し、その後、改めて淫魔法【ラブホテル】でサナ達を迎えに向かった。
▽▽▽▽▽
改めて奴隷から開放されたシロツメとカタバミに目隠しをして、手を引きながら【ラブホテル】で繋げた小さな物置へと誘導する。
サナも一緒に入った事を確認した後、出口を離れへと設定しなおして、また同じように二人の手を引きながら、離れの前庭、というか、店舗前の広場まで連れてきた。
「もう目隠し取っても大丈夫ですよ。」
私の声掛けに、恐る恐る目隠しを外すシロツメとカタバミ。
初めて【ラブホテル】を使っての移動の時に脅しすぎたかもしれないな。
「ここは……結界守跡地か?」
「いや、何度味わっても、この転移魔法には驚いてしまうな。」
二人共驚いた様子で、キョロキョロと周りを見渡している。
「ここからは、サオリさんとサナが里へ二人を誘導するんだよね?」
「はい。」
「ええ。」
ちょうど種族衣装に着替えたサオリさん店舗の方から返事をしながら出てきた。
「ああ、お二人にも装備を返さないと駄目ですね。」
メニューのアイテム欄から、シロツメとカタバミの荷物や装備を取り出し、広間にあるちょっとした台の上へと積んでいく。
って、まてよ?よく考えたら、これ、全部渡してしまって大丈夫なのか?
サナです。
奴隷解放の儀式ですけど、スキル【魔力操作】を使っての魔力供給が上手くいったので、早く終わったらしいです。
お父さんから魔力回復薬も預かってましたし、ちょっとやりすぎちゃったみたいな感じでしたが、役に立てて良かったです。
次回、第八二九話 「裏切り者」
次はお婆ちゃんの代理として、お二人を里まで誘導ですね。
こっちの方が緊張しちゃいます。




