第八二四話 「勇者への道」
「明日の夕方か、夜ってところかな。」
ざっくりとした明日のタイムスケジュールは、早朝、里には内密にシロツメとカタバミの奴隷解放。
これにはサナが同行する。
最初は儀式に助力は必要ないという話だったのだが、ミナちゃんが族長である今、サナは族長の継承権第2位なので、儀式のやり方を見て置いた方が良いという判断になったのだ。
それだけ本来行われる頻度の少ない儀式なのだろう。
ちなみに族長の継承権第3位はアエさん、以下、アエさんの長女サツキちゃん、次女のイノコちゃんと続くそうな。
当然、ミナちゃんに娘が出来れば、その娘が継承権2位になるのだが、中身はともかくミナちゃんの身体はまだ13歳なので、まだ先の話になるだろう。
いや、この前の夜伽で、あやうく孕ませさせられるところだったのだが。
あれ?そうなると、もしもそれで私の娘が出来ると族長になる可能性が高かったのか?
それはさておき、その奴隷解放の儀式が終われば、早乙女家の蔵を淫魔法【ラブホテル】経由で、離れにシロツメとカタバミが連行されてくる。
そして、旅から戻ったていで、離れから里へと二人は帰っていくのだが、これには、少なくてもサオリさんは同行する。
これは「離れ」こと結界守跡地の住人による慣習なのだそうな。
引退した族長のお仕事の一部といったものらしい。
来訪者と同人数以上で里へと導くのが原則だというので、本来であれば、サオリさんが先に里にいってサビラギ様を離れに呼び、改めて4人で里に行くというのが本来の形なのだが、今回は略式でサナがサオリさんの随行を務めることになる。
明日のサナは奴隷解放の儀式を2回立ち会った後、【ラブホテル】にシロツメとカタバミを案内した後、今度はサオリさんと一緒に歩きでまた里へとんぼ返りと、忙しい一日になりそうだな。
ミツキやチャチャが朝食係に立候補したのはファインプレイだったろう。
里についたら、四家とミナちゃんにシロツメとカタバミを受け渡したところで、サオリさんとサナのお仕事は基本的に終了なのだが、里の人たちの反応によっては、ミナちゃんやサビラギ様のサポートに入る可能性はあるので、この辺りは不透明だ。
おそらくなんだかんだで長引くので、昼食は早乙女家でとることになるだろうとのことだ。
どちらにしろ、用事が済めば、早乙女家から【ラブホテル】経由で帰ってくるので、それまでは正式な里の住人ではない私達は留守番になるな。
ちなみに翌日の午前はシロツメとカタバミの詮議が、午後からは、サビラギ様が私を勇者としてアサーキ共和国首都トラージへ連れて行くという件についての詮議が行われる。
午前の詮議には里の者しか参加できないので、サオリさんとサナだけが出席できるが、午後の詮議には勇者パーティーという扱いで、全員が参加することになる。
今回の場合は、里へは【ラブホテル】のショートカットではなく、歩いて里までいかなければならないので、少々面倒かもしれない。
そして3日後、サビラギ様は里を旅立ち、事前にエグザルから【ラブホテル】で、連れて来たロマ達と離れで合流し、改めて【ラブホテル】のショートカットでトラージへ行く、という段取りだ。
地母神様の勇者になるために種族特性【神殿】を使うと、眷属が強制的に集められてしまうことから、サオリさんやサナが別行動しているタイミングでは、使うことができない。
と、なると、必然的に勇者になるのは、明日、二人が帰って来た後、つまり夕方か夜ということになる。
明後日だとまたバタバタしそうだしな。
「……正直なところ、アタシ的にはというか、兎人族的には、パパが勇者になるのは複雑な気持ちもあるんスけど、地母神様の勇者ッスからね、アタシも眷属としてサナちー追いつけるし、よしとするッス。」
また変な事いいだしたな。
兎人族的には、か。
と、いうことは、
「もしかして、性奴隷として兎人族が狩られた歴史、『兎狩り事件』に勇者が関わっていたりするのかい?」
「そうッス、白鬼族みたいに白兎人族の里、というものが存在しないのは、時の勇者が族長を倒し、里を実質滅ぼしたからッス。」
実質、ということは、男は殺し、女は奴隷として連れ去った。と、いうことだろうか?
「当時の族長も奴隷として、その勇者に仕えさせられたらしいッスよ。
ま、100年以上も前の話で、魔王が現れるさらに前の話ッスけどね。
一説によると最初の勇者召喚は『兎狩り事件』のため、という説もあるくらいッス。」
それはまた酷い話だな。
話が長くなっているので、途中からはもう既に風呂を上がり、身体を拭いて、ミツキにドライヤーをかけてやりながらの会話だ。
ついでに久しぶりに淫魔法【トリコフェリア】でミツキの尻尾やウサ耳、そしてその根元のモフモフとした場所の手入れもしてやったので、ミツキは陰鬱な話をしている割にはご機嫌だ。
「だから、パパがその勇者とは違う神様の勇者になるっていうのは、実は嬉しかったりするんスよ。」
玄関まで送ったミツキはすっかり笑顔になっている。
「じゃ、アタシは離れに帰って寝るッス。
明日の朝食は期待してもいいッスよ?」
そういって手を振り、扉を開けようとするミツキの手を掴み、振り返らせ、軽いキスをする。
「おやすみ、ミツキ。明日からもよろしくね。」
「……おやすみなさいッス、パパ。これからもずっとよろしくッス!」
唇を指で触りながらも、にこやかな笑みを浮かべたミツキは、そういって扉から出て行った。
サナです。
お風呂場の方から、なんとなく声がするような気がするけど、ミツキちゃんが来てるのかな?
ミツキちゃんも前の私みたいに100回越えたみたいだから、お腹火照って大変なんだろうなぁ。
次回、第八二五話 「早朝」
明日か、明後日には楽にして貰えると良いんだけど……。




