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第八二〇話 「サオリと嫗と」

 「サオリの方の婿殿でも」って、あ、これ、サナを正妻として、ミツキをその姉妹妻として私が迎えることの根回しが、少なくても四家の長の中では完全に終わっているっぽい。


 サビラギ様、根回し早すぎない?

 いや、族長には必要不可欠なスキルだろうけど。


 「それはそうと、トラージに行った時、レン殿には前に相談した資材購入をお願いしたいと思ってね。

 こちらがその目録だ。」


 青家のおうな様は、サオリさんをからかうのに満足したのか、クイッと盃を空けた後、胸元から紙の束を取り出し、こちらへと差し出した。


 「拝見しても?」

 「もちろん。」


 開いて中を眺めてみると、そこには板や角材を中心とした木材類を中心に数々の資材の種類と数が書いてあった。


 書いてあったのだが、


 「思ったより少ないですね。」

 

 「レン殿がどれくらい一回で運べるかが分からないからね。

 そこに書いてあるのが一組、つまり最低必要量だと思って欲しい。


 可能なら二組、三組……は流石に難しいかもしれないが、多く買って来て貰えるに越したことはない。


 最初の詮議で里に献上してもらった物量を元に計算しているから、運べないことはないだろう?」


 なにげにこちらの能力を把握しつつ、必要量とすり合わせてくるとは、流石四家の長の一人だな。


 「経費はシロツメやカタバミからの献上金が入ってから、サビラギに……いや、直接レン殿にお渡しするよ。」


 今、微妙にサビラギ様への信頼が揺らいだように見えるが、気のせいということにしておこう。


 「いえ、大丈夫ですよ。これくらいなら立て替えて置きます。」


 「立て替えて置くとはいうけど、最低金貨20枚くらいはかかるよ?いいのかい?」


 少し驚いた顔でこちらの顔色をうかがう青家の嫗様。


 日本円なら200万くらいなら立て替ええておくよ、と言われたようなものだ、気持ちは分からないでもない。


 「多少なら蓄えもありますしね。

 予算の上限はどれくらいまでで?」


 「そうさね、そこまでは持ってはこられないだろうが、100金貨までは里の修繕用として話はついている。


 特に板や角材は里ではそこまでの加工は出来なくはないが面倒なんでね、多いに越したことがないよ。」


 「わかりました。」


 目録を畳み、懐に入れるふりをしてメニューのアイテム欄へと仕舞う。


 「ふ、む……。」


 「どうしました?青家の嫗様。」

 

 少し考えこんだ様子の青家の嫗様にサオリさんが声をかける。


 「いや、レン殿は甲斐性があるなと関心していたところだ。


 レン殿、今のサオリは良くも悪くも家長としても、族長としてもその重責から解き放たれておる。

 早乙女家直系の女としてもな。


 だからの、そろそろ一人の女としての幸せを求めても良いのではないかと、おもうのだ。


 掟でも定めでもなく、好いた男の子を産み、育てるのにはまだまだ遅い歳でもあるまい。


 人族の感覚としては難しいかも知れんが、考えておいてやっておくれ。」


 「青家の嫗様?!」


 そういって頭を下げる青家の嫗様を真っ赤になったサオリさんが、慌ててとりつくろう。


 既にサオリさんとの子作りは約束してますよー、とはいいづらい雰囲気だが、サビラギ様以外にも、サオリさんとの子に賛同者がいるのは心強い。


 ちなみに後から聞いた話なのだが、サオリさんの前の旦那さんは青家の嫗様から見ると孫にあたる人物で、子どもが出来なかったことを心配していたのだそうな。


 「みんながそれを望んでくれるのならば、きっと。」


 まだ立場があやふやな今、断言はできないものの、せめての誠意をこめて、そう答え、頭を下げると、青家の嫗様も満足そうに小さな頷きを返し、サオリさんだけが真っ赤な顔であわあわとしている。


 さて、座卓の反対側では、白家と黒家の嫗がマミ先生とヤコさんと話を弾ませているようだ。


 鬼族も所属する東本社、しかも高位の尼であるマミ先生の説法は、白家の嫗様のようなタイプにはありがたいものであろうし、多種族との交流を担当している黒家としてはヤコさんからの他種族よもやま話なんかは、興味深いものだろう。


 普通に講演で金取れそうだな。と思ってしまうのは、大聖神国街の大教会からの悪影響だろうか?

 サオリです。

 青家の嫗様ったら、もう、顔が熱くて、まともにレン君の顔が見れません……。


 ……でも、はっきりと言葉にしてくれて、とても嬉しかったです。


 次回、第八二一話 「台所組」


 それにしても、青家の嫗様にも心配をかけていたのですね、わたし……。

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