第八一〇話 「五家の依頼」
「パンですか?いいですよ?」
「ありがとう、アエ姉さん。」
「ありがとにゃー!」
「よろしくお願いするッス。」
「なにするのー?」
「僕もやるー僕もやるー。」
うちのメンバーにアエさんの娘のサツキちゃんと息子のシロも加わり、あっという間にサオトメ家の台所が修羅場になった。
ま、ここの仕切りはアエさんとサナに任せるとして、私とサオリさんは事態の進捗状況を聞きに族長室の方へと向かおう。
▽▽▽▽▽
サオリさんが族長室の中に一声かけ、茶の湯でもするような丁寧な作法で襖をあけ、中へと促すので、先に入り、軽く一礼する。
そこには、そんなに朝遅い時間でもないというのに、サビラギ様とミナちゃんはもちろん、赤青白黒各家の長老が、詮議の時よろしく、大きな一枚板の座卓を囲んでいた。
襖をしめたサオリさんが私に続き、促されるままに下座へと座ることになった。
「良いところに来た、レン殿。
少々煮詰まっていたところでな、外部の話も聞きたいと思っていたところじゃ。
概略を説明するでの、忌憚ない意見を聞かせて貰いたい。」
真正面に座るサビラギ様がそういって、横のミナちゃんを促すと、今までメモをしていたであろう書面をめくり直しながら話し始めた。
まずは比較的明るい話題からだ。
きっかけはともかく、「若き日のサビラギ様にあこがれて」里を出て、武者修行をして帰って来た(と、いうていになる予定)のシロツメとカタバミは比較的軽い量刑で済ます予定だとのことだ。
かといって、同じ理由で、俺も俺もと里から人が、というか、鬼がちょいちょい出て行かれても困るので、1年か3年程度、それぞれの本家の奴隷刑となるということで、手打ちになるらしい。
で、この際、二人から里への献上金の話を出してもらい、里の修繕資材の原資に充てるほか、その功をもって刑を免除する。という流れまでが確定路線だそうな。
そういや前に青家の嫗が、家屋や水路、諸々を修繕する資材が足りないといってたっけな。
資材の買い出しの方を頼まれそうだが、これは前もって頼まれていたことのなので、こちらとしては問題ない。
それから、タイミングはともかく、奴隷から解放させる儀式が必要なので、おそらく手を借りることになるだろうとのことだ。
こちらは儀式に対する技術的な話ではなく魔力供給的な意味での助っ人がメインらしい。
逆にケイジョウを奴隷化するのも同様だ。
サビラギ様がだいぶ脅しているので、嘘をつくとは思わないが、念には念を入れて、という意味と、犯罪奴隷に落とすという意味もあるらしい。
さて、その問題のケイジョウだが、基本的には死罪だ。
ケイジョウのやったことは、主犯かどうかは別として、水源地を故意に汚染させ、3年間、里の赤子を全員殺し続けたことと同意なので情状酌量の余地はない。
処刑、しかも重い量刑こそが相応しい。
この場合の量刑は、殺し方の種類の方をいっているようだ。
ただし、ここで、問題がある。
ケイジョウがやったことを正直に里の者たちに話せるかどうか?という政治的な問題だ。
たとえば、白家の水源の管理責任だとか、ケイジョウ自体の管理責任。
特に前者は以前、【鬼灯提灯手長海老】が原因だと里の者たちに説明はしたが、それを今まで発見できず放置していたのは問題ではないか?と、いう意見は決して里では少なくない。
海老はたまたま魔道具『鬼灯提灯』と融合してしまったためとしても、その『鬼灯提灯』自体を水源に放ったのが同じ白家のケイジョウであるなら、なおさらだ。
サオトメ家を除く四家筆頭の白家の自体が里の敵になってしまう可能性すらある。
ただし、これはケイジョウが実行犯だった場合だ。
実行犯、あるいは計画犯が、ケイジョウが連れて来た枢機卿となると、話は更にややこしくなる。
枢機卿がどこまで里の事を知っていて、どこまでを目的にしていたかにもよるが、最悪を想定した場合、枢機卿が里に迷宮があることをケイジョウから聞き出してあり、それを手にするために、計画的な白鬼族の断種、あるいは改宗のため、起こした事件であり、その行動自体が、聖神大教会の指導の下、行われているとなると、大問題どころの話ではない。
この場合は、逆に里に全部説明した上で、最低でも枢機卿の引き渡し交渉、最悪の場合、聖神大教会と稲白鬼の里との戦争、あるいは大聖神国街とネネの街連合軍VSアサーキ共和国との戦争まで発展しかねない。
「その枢機卿は失脚したと聞いていますが?」
「代わりの者が内容を受け継いでおったら同じじゃよ。」
そりゃそうだ。
どこまでその枢機卿が情報を独占しているかにかかっている。
ちなみにケイジョウは枢機卿に迷宮の事は話していないと言っているそうだ。
ふーむ。
「現状の枢機卿を里に招待し、お話を伺うというのは?」
「里に招待?……そうか、レン殿なら出来るか。」
上手く説得して本人の意思で来てもらえれば良し、なんなら多少の工作は必要だろうが、ケイジョウのように拉致って来るのも手だ。
「どういう方法になっても稲白鬼の里の者ではない私が使者となるのが適当でしょう。」
「ふむ……頼まれてくれるか?」
「ええ、一応下準備はしてあるので、今すぐにでも。」
さて、聖神大教会で第2ラウンドだ。
サナです。
パン作るの久しぶり。
市場でパン用の種麹は買っておいたんですが、なかなか使う機会がなくて……。
アエ姉さんも一緒だから、少し大きなものにも挑戦してみようかな?
次回、第八一一話 「元枢機卿」
ミツキちゃんやちーちゃんが使うなら角食を作ったほうがいいかな?




