第八○一話 「隷属の訳は(後編)」
「ケイジョウが不当に稼いだと判断するかどうかは別として、お二人、いやメヒシバさんを含めて三人が、まさに命懸けで集めた財産があるとすれば、それも回収して里に戻りたいと思うのだけど、ケイジョウがどこにそれを隠しているかわかります?」
「ふむ、貴重品は探索者ギルドに預けるのが普通といえば、普通だが、ここのギルドの場合、それが金銭でしかも多額になると寄進を迫られるからな、貯め込んでいるとすれば、ケイジョウがヤサにしている亜人族用の宿だろう。」
カタバミは顎に手を置き、少し首を傾げながらそう答える。
「お二人もそちらに?」
「いや、それがし達はギルドの安宿よ。子どもの小遣い程度の金子しか渡されていないからな。」
「それもまた酷い話ッスね。」
サナの質問に答えたシロツメにミツキが同情する。
「宿の場所自体は分かるのですか?」
ちょっと機嫌の悪そうな声でサオリさんが聞いてくると、
「ああ、何度か酔いつぶれたケイジョウを運んだことがあるからな。
俺は分かるぞ。」
逆に少し楽しそうな声でカタバミが胸を叩きながらそう答える。
どうやらケイジョウに一泡吹かせられそうなのが嬉しいらしい。
「女連れでも大丈夫かしら?」
「一人二人くらいなら大丈夫であろう、飲み屋の娘に送って貰ったような話をしていたのを聞いたことがある。」
今度は少し考えた顔でシロツメが答える。
飲み屋の娘に送って貰うって凄いな。
いや、同じ宿を使っている亜人族の娘かもしれんが。
「うん、それじゃ、それは後でなんとかするとして、とりあえずこの迷宮から出ましょうか。」
少し話し込んで時間をかけてしまったが、皆の気力も体力も回復した様子だし、そろそろ移動しよう。
ケイジョウを淫魔法【精力回復】で歩ける程度までは回復し、足枷だけ外して、手枷はそのままに、鎖でつないで引っ張っていくことにする。
ついでといってはなんだが、この先の事のため、淫魔法【淫具召喚】で、目隠しと耳栓も付けさせて貰った。
もちろん、棒状の猿轡もそのままだ。
「なんか、奴隷として売られていくみたいッスね。」
実際に売られた身であるミツキがそう呟くが、同情した様子はない。
「まあ、今度は自分の番が来ただけのことでしょうね。」
里に戻れば、十中八九、ケイジョウは偽証防止のために誰かの奴隷にさせられ、全てを吐かされるはずだ。
売る訳ではないが、ミツキのいうことも決して的外れではないだろう。
▽▽▽▽▽
「人族に化ける魔法というのも珍しいが、男に化けるというのもまた凄いな。」
「どっちかというと、こっちが本当の姿なんですが、他言無用でお願いします。
最悪、サビラギ様に殺されますよ。」
「……心得た。」
別にカタバミを脅す訳ではないのだが、淫魔の姿は秘中の秘だ。
サビラギ様も私を勇者に、とはいっているが、あくまで男の身体でのことだろう。
と、なれば、淫魔の身体のことは隠せるだけ隠しておいた方がいい。
シロツメも裏があることを察したのか素直に同意してくれたのは助かる。
今は、いつもの淫魔法【ラブホテル】での移動の前に、迷宮に入って来た時と同じように種族特性【擬人化】や、【トランスセクシュアル】で人族の格好に着替えた、いや化けなおしているところだ。
そうした上で、シロツメとカタバミに淫魔法【淫具召喚】で出した目隠しを差し出す。
「……この先、起こることを見ても殺されるということか?」
「結果を話しても殺されるでしょうね。私かお二人かは別として。」
淫魔法【ラブホテル】で大人数を長距離輸送出来ることを人に知られるのはサビラギ様に殺すと念を押されるほどの禁足事項だ。
ちょっといってケイジョウを攫って来いというくらいだから、使うこと自体は容認しているだろうが、どちらかというと二人の命のために何をしているかは隠しておいた方が良いだろう。
先ほどケイジョウを『説得』する時にも使った扉に改めて淫魔法【ラブホテル】を使い、中に入る。
今回はあくまでも移動用に使うだけなので、玄関が広く、すぐ部屋に辿り着ける場所ということで、簡単なコテージに繋げてある。
カタバミはチャチャが、シロツメはサナが手を引き、ケイジョウは私が鎖を引きながら全員入室したあとで、ぐるりと室内を一周して、改めて入って来た扉に【ラブホテル】をかけなおす。
もちろん、次に繋げたのは大聖神国街の探索者ギルドの宿泊棟なのだが、よく考えたら、ここでシロツメとカタバミには先に説明しておいた方がいいかな?
サナです。
シロツメさんもカタバミさんも大変なご苦労をされたみたい。
お父さんが二人のために努力の結晶を回収しようとするのは分かるけど、そもそも二人って里で許されるのかな?
次回、第八○二話 「お宝探し」
お父さんの事だから、その辺りのことも考えているとは思うんだけど……。




