表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

801/979

第八○○話 「隷属の訳は(中編)」

 「まあ、それはさておき、少なくても俺たち二人は、主な目的以外にも楽しんでいたことは否定せんよ。」


 「主な目的ですか?」


 不思議そうに首をかしげるサナ。


 「そうだな、いってしまえば俺たち二人はサビラギ様になりたかった。

 腕一本でどこまでいけるかを試したかった。」


 「なれば、それは一番困難な場所で試したかった。

 それこそサビラギ様ですら経験のないような場所。


 そうして選んだのが大聖神国街だった。

 里を出たのはそんな他愛のない子どもじみた理由よ。」


 そういって目を伏せるシロツメ。


 カタバミもシロツメもケイジョウも武人肌なのだろう。

 そしてそれを里で口に出せるほどには己に自信を持っていなかった。


 二人の言葉からは、そんな印象をうけた。


 「もう一人、メヒシバはどうだったのですか?」


 二人が里を出て行った頃を知っているサオリさんがそう問いかける。

 その男が里を出ていった3人目か。


 「あれはなぁ、元々粗忽物なのもあるが、純粋にケイジョウの境遇に憧れてたようだったな。」


 「メヒシバの家は流行病で、あやつ以外、皆亡くなっていたからなら寂しい気持ちもことさらだったのだろう。


 腕も黒帯になりたて、一番、当時の自分を変えたかったのはあやつだったろうな。」


 カタバミにつづき、シロツメが少し辛そうな顔で、そう語った。


 「大聖神国街に着いた後、ケイジョウと枢機卿が言ったんだ、腕に覚えのあるものであれば、なにはともあれ迷宮で当座の生活費を稼ぐのが一番だと。

 

 それはもちろん、誰にも異存はなかった。

 少なくても俺ら2人は腕試しが目的で里を出た訳だからな。


 ここの迷宮に慣れたケイジョウを頭領として徒党で迷宮に登録し、しばらくは迷宮と地上との往復生活が続いたよ。」


 少し懐かしそうにカタバミがそういって目を細める。


 「だが、深い階層に潜るに連れ、メヒシバの粗忽さが、いや、この迷宮の罠があやつの命を奪った。」


 カタバミの強い一言。


 稲白鬼の里の迷宮に比べ、この迷宮のモンスター分布はいってしまえば意地が悪い。


 強い敵と弱い敵が混在し、弱い姿のままで高レベルの敵すら現れる。


 カタバミのいう罠とはその事だろう。


 「あっというまだったよ、我らが助けに入る余裕すら無かった。

 我らならば敵ではないような相手であったが、一番の格下だったメヒシバにとっては、十分、即死に値する攻撃だった。」


 カタバミにの言葉にシロツメが続く。


 「だが、それは迷宮であれば、悲しい事なれど十分にありうる話だ。

 この迷宮ほどじゃなくとも油断が命取りになるなんてことは当たり前のこと。

 悲しい事故ではあれど、ことさら問題になることではない。我らの常識ではな。」


 そういったカタバミの眉が歪む。


 「それが問題になったと?」


 緊迫した空気の中、サオリさんが問いかける。


 「ああ、なぜか、そう、なぜか問題となった。

 頭領であるケイジョウの指示に徒党である我々がちゃんと従わなかったため、貴重な命が失われたとな。」


 「そんな!」

 「いや、おかしいッスよそれ。」

 「うん、あたしもそう思う。」

 「弱いと死ぬのは当たり前にゃよ?」


 シロツメの返事に四者四様に感想が漏れる。

 意外とチャチャの感想が一番辛辣だ。


 「裏で枢機卿とケイジョウの手が回っていたんだろうな。

 あれよあれよというまに訴えられ、裁判をうけ、二度とそのように無いようにと、こうしてケイジョウの奴隷にさせられた。というわけだ。」


 そういいながら、つまらなさそうに頭を掻くカタバミ。


 「ケイジョウや枢機卿からすれば、計画通りといったところだったのであろう。

 ところが、ケイジョウの後ろ盾だったその枢機卿がその後、失脚するという事件が起こった。


 詳しいことは知らぬが、島住みほどの高待遇を受けていたケイジョウは後ろ盾を失い、失脚、一介の探索者として我らを使い、日銭を稼ぐ生活に落ちたというわけだ。


 まぁ、日銭を稼ぐといっても、これだけの階層に潜れる探索者はそうはいない。

 なんだかんだと、ケイジョウは贅沢な生活はしておったがな。」


 シロツメも面白くなさそうにそう吐き捨てる。


 島住みほどの高待遇、というのは、亜人族なのに昨日見学した湖の中心にある島の修道院に住めるくらいのという意味だろうか?


 枢機卿が失脚しているということも含めて情報量が多い。


 ケイジョウは贅沢な生活を、というからには、カタバミやシロツメには稼ぎの還元はほとんど無かったのだろう。


 ふむ、その財産、2人のために没収してしまいたいところだな。

 サオリです。


 つまり、何らかの理由をつけて、大聖神国街に連れ込み、問題を起こさせて奴隷化させることが、ケイジョウの、いえ、その枢機卿の目的だった?


 もしかして他の亜人族の人たちも?


 その失脚したという枢機卿個人の計画なのか、それとも新教自体の計画なのか気になりますね。


 次回、第八○一話 「隷属の訳は(後編)」


 いえ、これは今、考えるより里に戻ってケイジョウから直接聞き出すべき事。

 今は、まだ落ち着いて帰ることだけを考えましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ