第七十九話 「桜の妖精」
「お父さん起きて―。」
「んー、サナ、もう少し寝かせて。」
「駄目―。もうご飯用意してるから、お味噌汁冷めちゃう。」
容赦なくユサユサと私の身体を揺らしてくるサナ。
って、お味噌汁?
目を開けると膝下丈のロングデニムシャツワンピースに淡いピンクのエプロンを付けたサナがいる。
幼な妻感というか新妻感というか通い妻感というか、なんか朝から凄い。
「おはようサナ。エプロン凄い似合ってるけど、それどうしたの?」
記憶にはないが酔った勢いで自分が出したとかいうオチだったら別の事もやらかしてそうな気がする。
「娘さんのもう使わなくなったやつだって、おかみさんにいただきました。」
そういってクルッと回って見せるサナ。
やだ可愛い。
二日酔い気味でぼやけた頭が晴れていくようだ。
おっと、種族特性【性病無効】をアクティブにしておかねば。
毒扱いなのか病気扱いなのかは分からないが二日酔いが溶けるように消えていく。
それにしてもサナのエプロンはシンプルなデザインだが、逆にそれが細身の身体に良く似合う。
とはいえエプロンドレス的なものでも、それはそれで似合いそうではあるが。
「可愛いね。」
「えへへー。今日の朝御飯はおかみさんに調理場も材料も借りれましたから、ほぼ、あたしの手作りですよ!なんとお味噌汁まであります。」
人差し指をビシッと立て、力説するサナ。
ちょっとテンション高い。
朝食を作りにいった先でエプロンも貰ったのか。
また今度お礼いっておかなきゃ。
味噌汁の匂いを頼りにテーブルを探すと、どうやらベッドの足元の方にソファーとテーブルがあり、そこに料理が並べてあるみたいだ。
上半身だけ起きた状態だと角度的にまだ何が並べてあるかは見えない。
「だからお父さん起きて起きて。」
サナに手を引かれ起き上がる。
あ、ちゃんと服着てる。
といっても作務衣を脱いだ状態なだけだが。
飲んだ後だから結構寝汗かいてるな。
促されるままソファーに座ると目の前のテーブルに朝食が並べられていた。
サナが料理の説明をしてくれる。
まずはおにぎり。
左から順に、昨日豚肉炒めでも使ったししとう味噌のおにぎり、昆布の佃煮、鳥の梅和えの3種類。
おかずとして、にらの卵とじと、魚の照り焼き。
それから、ほうれん草のおひたしまである。
コーヒーカップには、わかめと玉葱の味噌汁が入っている。
ちなみに味噌汁は昨日の晩に買ったブダのジュースの大きな器を洗ったものに入れて運んだそうな。
あとは湯呑にラブホテル備え付けの日本茶が用意されている。
「凄いねサナ。美味しそう、食べてもいい?」
「もちろん食べて食べて。」
嬉しそうに濡れタオルと箸を差し出すサナ。
それじゃ遠慮なくというか、もう我慢できないので
「「いただきます。」」
美味い!
これは美味い!
もちろん調理の技術的にはおかみさんの方が数段上なのは分かるが、サナの料理は家庭的な味というか身体に染みるような愛情を感じる安心する味だ。
毎日食べたい系の味とでもいうのか。
特に、にらの卵とじが美味い。
部屋まで持って来るために固めに焼いたんだろうけども、それでも上手く折り畳んだのか内側がちゃんと半熟を保っており塩気のバランスと醤油の風味が絶妙だ。
魚の照り焼きも美味いが、鳥の梅和えのおにぎりの酸味がまた食をそそる。
そして身体に染みるような味噌汁。
人が自分のために作ってくれた味噌汁なんて、また泣いてしまいそうだ。
大丈夫だよな?私泣いてないよな?
「…どう?」
おそるおそるサナが顔を覗き込んでくる。
「正直にいっていい?」
「う、うん。」
「最高に美味しい。ありがとうサナ。」
ホッとしたような顔から満面の笑顔になるサナ。
安心したのかエプロンを外して畳むと自分もおにぎりに手を付け始めた。
▽▽▽▽▽
「ごちそうさまでした。美味しかったー。」
「えへへ、お粗末様でした。」
サナが入れなおしてくれた日本茶を啜りながら一息つく。
「サナは料理上手だね。家でも料理してたのかい?」
「はい。叔母とあたしが毎日の料理担当でした。」
「どおりで家庭的な安心する味だと思ったよ。サナはいいお嫁さんになれそうだね。」
横に座ったサナの頭をグリグリと撫でると、その手に合わせてオーバーアクションで首を回すサナ。
「今日も全部食べてくれて嬉しいです。」
胸元というか首元近くに祈る用に両手を重ね、うつむき加減でつぶやくような声だ。
心なしか顔も赤い。
あれ?もしかして今回は偶然じゃなかったり?
「あの、サナ?今回も、おにぎりのご飯粒が3つ別にあったんだけど…。また偶然だよね?」
鬼族のご飯粒の数による秘められたおにぎりメッセージ。
三粒の意味は『私を食べて』だ。
前回は偶然そうなってしまったのを全部食べてしまい、結果的にサナも食べてしまったのだ。
ご飯粒を残すという習慣がそもそもないので今回も全部食べてしまっている。
ロングデニムシャツワンピースの首元から順にボタンを外していくサナ。
前開きのワンピースのボタンが上から順に次々と外されていく。
「…昨日の晩、この部屋に帰って来た後に、『そういえば前にサナがこれ可愛いっていってたよね。』って、この服を出してくれて…」
下腹近くのボタンまで外して立つとストンと服が落ち、その中身が露わになる。
パステルピンクのベビードール。
一見、胸の部分から下が前空きになるように見えるが、そこはレースになっており、サナの可愛いおへそや、お揃いのショーツが透けて見える。
エロい。
衣装的には抜群にエロいが、サナの小さな細身の身体と相まって桜の妖精みたいな美しさ、可愛さがある。
サナはモジモジと身体の前で指を組み替えながら
「着たら凄い褒めてくれて、可愛いっていってくれて、いっぱいちゅーもしてくれたのに、お父さん抱きしめたまま寝ちゃうんだもん。」
ぷいっと横を向くサナ。
恥ずかしいらしい。
「寝ちゃってるのに中々放してくれないし、お父さんからはいい匂いするし大変だったんだから。」
そういって抱き着いて来た。




