第七九四話 「ケイジョウという男」
あと、地下に降りていくうちに分かったことがもう一つある。
深い階層にいけばいくほど、亜人族の比率が高いのだ。
昨日、観光馬車でぐるりと外周を回っている時にも気を付けて見ていたのだが、農園などでもフードを被って作業をしている人たちをよくみると亜人族だったりと、この街では労働力として亜人族を必要としている様子だ。
その割には扱いが悪いのだけれども。
リーダーだけがレベル15の白人族で、周りは20代中盤の亜人族が、そのリーダーを守るように戦っている、というか、戦わされている、なんていう景色を見たのも、一つや二つではない。
あれ、どう考えても奴隷化されているよな。
いや、勿論、人族だけのパーティーも多いのだけれども。
最悪、ケイジョウもこのパターンだと、持ち主との間で面倒なことになりそうだな。
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「お、いたいた。」
5階層での戦闘後、『変成の腕輪』と淫魔法【夜遊び情報誌】のコンボで地下6階層のマップを手にして、パーティーを探していると、ようやくケイジョウの名前を見つけられた。
私達のように最短距離を無双しながら一直線に地下に潜っているのと違って、これだけの階層にくるのは大変だろうから、おそらく移動と狩り合わせて数日間、キャンプを張っているような状態なのだろう。
動きをみるからには、パーティーメンバーはケイジョウを含めて3人。
これはこっそりと拉致というわけにはいかなそうだな。
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地下6階層は、ざっくり調べた感じだと、ランク2からランク4までの敵が出る様子だ。
と、いうことは、レベル36のケイジョウから見ると、決して安全な狩場だとは思えない。
で、あるならば、仲間の二人が強いか、あるいはその強い二人を使役しているかのどちらかだろう。
どちらにしても、まずはケイジョウ一人だけの時に1度、アクションを起こしたいところだな。
特性【ビジュアライズ】で皆にも見えるように地下5階層と6階層の地図を広げ、うまくケイジョウのキャンプ地に回り込めるようなルートを相談する。
ランク4の敵ともなれば、私達にとっても油断は出来ない。
と、いうか、結構ここの敵はトリッキーな攻撃をしてくるので、冗談抜きで危ないから、なるべく敵にも合わずに、辿り着くルートで行きたいところだな。
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「貴方がケイジョウ=ハクね。
白鬼族族長 ミナ=サオトメ以下2名の名代として、召集令状をお持ちした。
神妙にかつ早急に里に戻られよ。」
ケイジョウはともかく、ほかの2人を警戒して、淫スキル【淫魔化】をした上で、種族特性【擬人化】をかけ、白人族の格好でケイジョウのキャンプ地へと乗り込んだ。
ちなみに仲間の2人は釣りか偵察にいって近くにいないのは確認済みだ。
「族長 ミナ=サオトメだぁ?」
痩せてギョロリとした目を怪訝そうに向けながら、ひったくるように書状を受け取るケイジョウ。
バラりと書状を開き、目を走らせていくが、その次第にその目は見開いていき、顔色は青くなっている……はずだ。
と、いうのも、この辺りは薄暗い上に、【擬人化】のせいで本来淫魔として効く夜目が効かないのだ。
念のため淫スキル【夜這い】で補填しておこう。
おーおー、顔が真っ青の上に手も震えている。
ミナちゃんはともかくサビラギ様の名前が効いているのだろう。
「さて、黙ってついてきて貰えるかしら?」
相手の心が折れているのを確認して、そう声をかけるが、ケイジョウが取った行動は意外なものだった。
ビーッツという紙を破る音、それを何度も繰り返した上、紙吹雪のようにそれを散らしたのであった。
「俺は何も見なかった。そして、お前らはこの迷宮から帰れない。
それで全ては解決。
そうだろう?」
そういって不適に笑うケイジョウ。
だが、
「いや、書状の写しはまだあるし、なんなら私達は今すぐ回れ右して帰って、教会の偉い人にでも掛け合って政治的にアンタを引き渡してもらうわよ?
その場合は、そこに書いてあったことが表沙汰になるけど、それでもいい?」
ハッタリではあるが、こういう場合に備えてサビラギ様は複数枚の書状を用意してくれたんだな。
サナです。
ケイジョウさんって、お母さんと同い年だったから、あたしも何度か見たことあるけど、こんな感じの人だっけ?
確かに白鬼族としては細身の人だったとは思ったけど……。
次回、第七九五話 「2人の男」
ご主人様の話だとれべる36だっていうけど、なんでこんなに自信満々なんだろ?
いや、確かにそんなに弱いというほどのれべるじゃないけど……。




