第七八二話 「擬人化」
一度、淫魔法【ラブホテル】経由で、里のアエさんの所に寄り、2カプセル分の豚肉をお裾分けすると、思いのほか喜ばれてしまった。
鶏肉と違って里では手に入りづらい食品なのだそうな。
里の迷宮でもドロップしないし、飼育している様子もないから、口に入る機会が少ないのだろう。
話を聞くと、ウシトラ温泉街経由で行商人が持ってくることも無いわけではないのだが、生肉となるとめったにないので、腕が鳴ると、サオリさんに似た笑顔とサナに似た発言をしていた。
その後、【ラブホテル】経由で離れに戻り、裏口から台所へ入ると、こちらもまたサナが手ぐすね引いて待っていたようで、既にカレーの香ばしい香りが漂っている。
そんなサナにも豚肉を渡し、料理を手伝うというチャチャを置いて囲炉裏のある居間へ、そして店舗部分へと足を延ばすと、薬棚の近くでミツキが辞典を3冊とも広げ、サラサラと筆を走らせながら勉強をしていた。
「ミツキ、ただいま。熱心にやってるね。」
「あ、パパ、お帰りッス。予定より早かったッスね。」
そういって顔を上げ、両手を広げるミツキに、近づいていき、軽く抱きしめる。
「やっと、コツというか法則というか、そんな感じのものを掴んできた感じッスよ。」
そういいながら、胸に頬ずりをするミツキ。
それは良いのだが、ウサ耳があやうく目つぶしになりそうになる。
「それは、たいしたもんだ。はい、これ、プレゼント。」
そういって、移動の途中にアイテム欄内で作っていた豚革の鞄を渡す。
サナの鞄のようにランドセルタイプではなく、ショルダーバックタイプのドクターズバッグで、ミツキのお薬辞典3冊が中で遊ばない程度の広さでゆったり入り、鞄の中で小物も入れ分けられるようになっている。
「え?これ、いいんスか?」
「辞典、3冊も持ち運ぶの大変だろ。今日のドロップ品の豚革で作ってみたんだ。
後でチャチャにもお礼いっておくといいよ。」
私の背中に回した手を放し、うやうやしく鞄を受け取ったかと思ったら、大事そうにそれを抱きしめるミツキ。
「パパ!ありがとうッス!大事にするッスよ!」
鞄を抱きしめたまま、キスの嵐を降らせようとするミツキ。
うん、思ったより喜んで貰えたようだ。
▽▽▽▽▽
「人族に化けて大聖神国街に入り込み、ケイジョウさんを探して攫って来いって、相変わらず、お母様は考え方が自分基準なんですから……。」
そういいながら大根おろしを乗せた、とんかつを口に運ぶサオリさん。
当初の予定では、今日の夕食はカツカレーだったのだが、そこは流石のサナ。
とんかつ自体の味も楽しめるように、とんかつ+カレー丼定食といった趣の夕食にアレンジしてある。
サオリさんが食べている大根おろしや、潰してペースト状にした梅紫蘇、天つゆ、香塩、もちろんソースなど、サイドメニューというか薬味もたっぷりだ。
チャチャなんかは、とんかつ→笑顔→カツカレー→ガッツポーズ→とんかつトッピング付き→小躍り、と、今日の成果を満喫している。
「そいういえば、前に男に化けて暴れたことはあったッスけど、人族に化けるって、やっぱり大分違うもんスかね?」
ミツキが言っているのはチャチャの父親がいたヤクザの事務所に私とサオリさん、そしてミツキの三人で乗り込んだ時の事だろう。
二人とも元々胸が豊かなタイプなので男の身体になった時は、だいぶ勝手が違う様子だった。
「ま、試してみた方が早いよ。
ご飯、食べ終わって人心地ついたら、一回試してみよう。」
「ちょっと楽しみですね。」
ご飯のおかわりを手渡してくれながらそういってサナが微笑む。
人族に化けても、男に化けても一番影響少なそうな感じのサナだが、それはそれとして新しいことにはワクワクしてしまうらしい。
「今は何よりご飯に集中しよう。
大根おろしに天つゆも良いけど、梅紫蘇、結構さっぱりして良いね。
ご飯がいくらあっても足りなさそうだ。」
「えへへ、たくさん炊いてありますから、いっぱいおかわりしてくださいね。」
チャチャ用のおかわりを盛りながらサナがそう笑顔を返してくる。
逆に少しカレーが余ってしまいそうな気がして心配だが、ミツキとチャチャが結構モリモリとおかわりをしているので、たぶん大丈夫だろう。
あと、このとんかつを肴に、実はビールが飲みたくなっているのは内緒だ。
サナです。
里にいた時は、豚肉なんて触る機会もなくて、料理の仕方も良くわかっていませんでしたが、今となっては、カプセルの豚肉も、お父さんとの大事な思い出なので、少しこってみました。
次回、第七八三話 「人の形」
やっぱり揚げ物やるときは魔力コンロの温度調節が凄い便利ですね。




