第七七一話 「ワシとロマ」
「あ、ロマさん。」
「おお、レン、久しぶりだな。
カレルラから話は聞いていたが、上手いこと逃げ切れたのか?」
破顔一笑、手を上げ、そんなことを聞いてくるロマ。
この店で待っていれば、そのうち現れるとは思っていたが、思ったよりも早かった。
いや、料理の状態的に、話が弾んで思ったより時間が経っていたのか。
「逃げ切れたというか、最後にはサオリさんがサビラギ様直系サオトメ家の雷名で方を付けてしまったという感じですね。」
そう話すと左隣のサオリさんが照れ臭そうに頬に手を当てている。
あの時は威厳たっぷりで格好良かったのにな。
「ワハハハハハ、それは格好付かなかったな。
ま、無事で何より、と、ここ、座ってもいいか?」
そういって、ラギちゃんとサオリさんとの間、いわゆるお誕生日席を指さすロマ。
それを受け、どうぞどうぞ、とサオリさんが席を勧める。
ちなみに、向かい側は、ラギちゃん、チャチャ、サナの順。
こちら側はサオリさん、私、ミツキの順で腰かけている形だ。
「おかみさんがサービスしてくれ過ぎて、食べきれないかもしれないところだったんです、座るだけじゃなく良ければ一緒にどうぞ。」
「おお、それはありがたい。遠慮なくいただこう。」
そういって、どっかと座るロマ。
その姿は久しぶりながらも、いつもと同じく人懐こそうな感じではあるのだが、
「で、この鬼の子は、またレンの新しい娘かなにかか?」
と、ロマにしては若干、固い声色で問いかけて来た。
ちなみにラギちゃんは明らかに笑いを噛み殺した顔をしている。
この人、人生、いや鬼生、楽しみ過ぎではないだろうか?
▽▽▽▽▽
「お初にお目にかかる、ワシもサオトメ家に連なるもので名をラギと申す。
プラチナ蹴りで有名なロマ殿とお見受けするが、これも何かの縁、よしなに頼む。」
「ほうほう、これは年若いのにご丁寧に。
お見込みの通り、この街の探索者ギルドでゴールドをやっているロマだ。
サオトメ家ゆかりの方というのであれば、こちらこそよろしく頼む。
ところで、」
和気あいあいとした笑顔での挨拶交換の最中にロマの大きな左手がラギちゃんの頭を、わっしと掴む。
「俺がプラチナの地位を蹴った話を知っているのは両手で数えるほどしかいないはずだが、何処で聞いた話かな?」
「ぎゃー!」
メリメリと音でも立ちそうな気合で頭を握り、そして下に押さえるといった風に力が込められていくロマの手。
「プラチナの地位を蹴ったって、どういうことですか?」
特に隣のラギちゃんを心配した様子もなく、サナがそうロマに問いかける。
「そのままの意味だよ。
プラチナの探索者にならないか?と国から打診があったんだが、断ったんだ。」
「もったいない、なんででッスか?」
ミツキも興味津々だ。
「確か、国から給金はもちろん、爵位も貰えるのでなかったでしたか?」
さすが元族長サオリさん、この辺りは詳しいらしい。
「それに加えて、軍属と勇者属、つまり、国の軍と勇者に従う義務もついてくるんだよ。
それがどうにも俺には面倒でな。」
ロマの話によると、いうほどそんなにガチガチの規律ではなく、簡単にいってしまえば、国の軍や勇者の敵に回るな。というのがまずベースにあり、その上で、それぞれから依頼が来ることがあるのだそうだ。
もちろんベースの話であり、依頼であれば断ることも可能なのだが、ロマの性格的には、それに反する、あるいは断るということは、それらを敵に回すのと同じと考えてしまうらしい。
それならば気楽なゴールドの方が自分の身の丈にあっている。と、ロマは笑っていた。
とはいえ、いつも忙しそうにしているから、あまり気楽そうには見えないがな。
「堅い、堅いのう。そんなのほっとけばいいんじゃ。
プラチナへの任命なんて、国がアンタは私達の手には負えませーんって泣きを入れて来たくらいに考えておけばいいんじゃよ。」
最初はロマの抑え込みに首を竦めていたが、いつのまにかケロッと背筋を伸ばしながらそんなことを言い出すラギちゃん。
ちなみにロマの万力のような手はそのままで、力を抜いている様子もない。
サナです。
久しぶりの女将さんのお料理、美味しいです。
それにしてもお婆ちゃん、この姿でも元の姿と同じ強さなんですよね?
手に持っているお皿とお箸、びくともしていないですもの。
次回、第七七二話 「ワシとプラチナ」
っていうか、普通に大皿から取って食べてるし。




