第七六九話 「ワシがお土産」
コマさんの話によると、重陽の節句は、菊の節句とも呼ばれ、5月5日の桜の節句と並んでウシトラ温泉街では2大花祭りとして大いに賑わうのだそうな。
ウルーシの街を越え、ネネの街側から人族の来客も多く、温泉街としては稼ぎ時の一つらしい。
端午の節句の立場がないな、と一瞬思ったが、その辺りは、たぶん淫スキル【睦言】の翻訳の関係なのだろう。
花をテーマとして賑わうのは勿論なのだが、亜人族によっては、発情期とも重なる時期のお祭りということもあり、色々な意味で盛り上がるのだそうだが、流石にその辺りは菊の節句より桜の節句の方がウエイトが大きいらしい。
一応、猫人族とかは菊の節句辺りに発情期がくる人もいるらしいので、注意した方が良いとはアドバイスされた。
チャチャに発情期とか、ちょっと想像つかないな。
まあ、それを言ってしまったらサナだって本来なら普通にそういう雰囲気か。
今は立派なサキュバスちゃんだが。
ウシトラ温泉街に人族も多くなる期間ということもあり、色々なトラブルも多い分、色々なサービスも多く用意し、全体としては気持ちよくお金を落として貰うコンセプトにはなっているらしい。
ただ、亜人族の歴史的背景として、ネネの街が結果的に人族に落ち、ウルーシの街が人族との絶対国防圏となり、その補給基地としてウシトラ温泉街が発足、発展した経緯から、人族に対する示威行為的なイベントが開催されるのが恒例なのだそうな。
簡単にいえば祭りの期間、亜人族は人族より強いんだぞイベント開催中、となるわけだ。
武道大会でも開かれたりするんだろうか?
で、今回はその一環として、『金剛姫九角岩』のお披露目をし、『金剛姫』サビラギ=サオトメの実力は未だ健在!
亜人族の土地を荒らそうなどと思ったら分かっているだろうな?みたいなイベントをコマさんは考えているらしい。
大事よね、武力。
コマさんとサビラギ様との菊の節句自体の打合せは、前回の角赤亭滞在時にもう済んでいるらしく、今回はこの『金剛姫九角岩』の見せ方についての相談がメインとなった。
▽▽▽▽▽
「お土産何にしましょうか?」
「実際には移動に時間はかかんないッスけど、建前上、日持ちするものじゃないと、良くないッスかね?」
「いっぱいあって目移りするにゃぁ。」
「うふふ、こういうのは悩むのも楽しみのうちですね。」
打ち合わせも終わり、今は一同でお土産屋に繰り出している。
サビラギ様も一緒なのだが、試食の手毬飴を頬張っているので今は大人しい。
さっきまでは「ロマ達にはワシ自身がお土産みたいなもんじゃ、他には特になにもいらんだろ。」などと言ってたが、「それはちょっと……」と、気を使ったコマさんに「紅の八塩」という、赤い清酒を用意されていた。
ちなみに、瓶を割ったりしないように私がアイテム欄に預かっている。
雰囲気的に結構珍しく高価なものらしい。
ずいぶん鮮やかに赤いお酒だが、赤米でも使っているのだろうか?
正直なところ少しご相伴に預かってみたい。
「サナ、これ中々じゃぞ?!」
「ほんと?じゃ、お姉さん方に買っていこうかな?」
手毬飴を舐め終わったサビラギ様がそういってサナを手招きしている。
って、サナ、もしかして娼館のお姉さん方にもお土産買っていくつもりなのか?
いや、確かにある意味世話にはなったが。
▽▽▽▽▽
「ほう!確かにエグザルの探索者ギルドじゃな!」
ギルドの2階の踊り場から吹き抜けの下を眺めながら、楽しそうに声を上げるサビラギ様。
いや、ラギちゃん。
ちゃんづけというのも抵抗感があるのだが、念のためエグザルでは、実は『金剛姫』サビラギだということがバレないよう、そういう偽名で呼ぶことになった。
一応、サナの再従姉という設定で、サオリさんから見ると、いとこの娘という立場になるのだが、サオリおばさん呼びだけは、サオリさんが絶対拒否したので、サオリ姉という呼び方に留まっている。
「まずは飯かの?久しぶりに探索者飯を食いたいところじゃ。」
「ああ、それなら良いところがありますよ。」
ちょうど夜市が始まるくらいの時間帯だ、なら、まず初めに顔を出したいところがある。
「おば…じゃなかった、ラギちゃん、こっちこっち。」
「ははは、大丈夫じゃサナ。さすがに下の階への道は分かる。
昔ワシが壊してからこういう造りになったのじゃしな。」
今、さらっと、酷いこと言わなかった?
サオリです。
実の母親におばさん呼ばわりされるのは流石にちょっと……わたしもレン君に若返らせてもらおうかしら?
でも、それをすると、関係や話がややこしくなりすぎますし……。
次回、第七七〇話 「ワシと夜市」
と、いうか、お母様、外見につられて行動も若くなっていたりしませんか?




