第七五四話 「二柱の神」
その二柱は宙転神、夜天神。
天父神様が空と太陽を司るのであれば、その外側、この星を回し星の運行を司る神様が宙転神、夜の帳を下ろし、夜と月を司る神様が夜天神。
天父神と同じく空を司る神様だというのは共通で、太陽と、星と、月をそれぞれ司る、といった認識で良いのかな?
この二柱は地母神様方三柱の神様より古い神様で、地上からは知られていない、あるいは忘れられているであろう神様なのだそうな。
「空は全て天父神様が司るものだと思っていました。」という、サナの感想が一般的な認識なのだろう。
人族が増え、信仰を集めていく天父神に宙転神が嫉妬をしはじめたのが事の発端で、天どころか宙を統べる自分に人の信仰が集まらないのはおかしい。と言い始めたのだそうな。
宙転神は二柱の創造神から見ても長兄?(性別は無いが男神よりらしい)で、末の天父神に自分が劣るのが我慢ならず、今の天父神の座を乗っ取ろうとしはじめた。
実際のところ、星の運行を司る宙転神は、長兄の上、星の一部として太陽や月の運行自体も司るため、能力的にも、天父神を超えており、これら五柱や他の神を創造した二柱の創造神がこの世界を去った当時、誰も宙転神止められるものが居なかった、という状態だったらしい。
そして宙転神が人族の信仰を集めるために行ったのが『種星落とし』。
現在、大聖神国街がある位置に星の種を落とし、無理やり星の生気を活性化させ、迷宮を創るという荒業だ。
荒業過ぎて、大地を司る地母神様が衝撃に抵抗しなければ、下手したらこの島自体が消し飛んでたかもしれなかったそうな。
手加減下手か!と地母神様が怒ってた。
星の種は落下の衝撃で二つに割れ、大聖神国街に二つの迷宮をつくり、そこから根を張って、大地の精を吸い上げながら、十二新興街にあるほとんどの迷宮の元となったそうな。
ほとんど、というのは、海母神が作ったトラージの迷宮や、地母神様が作ったエグザルの旧迷宮などがあるからだ。
それには十二新興街という円の形の迷宮群による魔法陣を引かれ、地上を支配されることを阻止する意味合いもあったらしい。
とはいえ、結局地上を侵食されて新迷宮が山の中に出来たエグザルなどもあるので、地母神様は星の根を切って回るのが大変だったと怒っている。
ちなみに稲白鬼の里の迷宮は純粋に地母神様の作った迷宮との事だ。
宙転神は迷宮が二つある星落ちの地の場所を天父神の上級信者に神託で告げ、そこに人が集まり、街になり、そこから始まったのが、天父神(実は信仰の対象は宙転神)を海母神や地母神様より兄と位置付け、大聖神国街を中心に信仰されている『新教』なのだそうな。
完全に乗っ取る気なのよね、天父神の座も地上も。とは地母神様の談だ。
さて、その時の地母神様は、その星落としの衝撃に抵抗した際の余波で、真核である一部の神格を除き、ほとんどの神格が多次元に吹き飛ばされてしまい、元の世界に戻れなくなってしまっている。というのが現状で、飛ばされた次元によっては、こうして地母神としての力の一部だけが何かと融合してしまい、変質してしまっている神格もある。と、改めて角や羽根、尻尾を出して見せる。
つまり今ここにいる地母神様は、地母神たる能力の繁殖力の部分が、サキュバスという概念に引き寄せられ、淫魔という形に変質してしまっている状態なんだな。
あれ?ってことは、
「その身体が、この世界に召喚されたときは、地母神様から見て元の世界に戻るチャンスだったのでは?」
「そうよ。
そこにいた者の願いを叶える代わりに生命力を貰い、帰還するつもりだったのだけれども、結局安定しなくてね、結局貴方に身体と能力の一部を託して、えーと、アンテナ?代わりに使わせて貰っているわ。
お礼に少しずつ、権能も与えてあげているでしょ?」
あのトンチキスキルや魔法を与えてくれているの地母神様だったんかい。
私の世界に毒され過ぎなのでは?
それはそうと、地母神様、アンテナとか、私に分かりやすい表現をしはじめた。
おそらくこの当たりの知識は、飛ばされた側の世界で得たものなのだろう。
具体的にはエロゲの世界とかで。
そう考えると、多少能力が偏っていてもしょうがないのかもしれない。
結局、以前に想定していたとおり、サキュバス体である地母神様を、この世界に召喚する際、次元の穴の階層を掘り過ぎた、というか、実は地母神という存在が大きすぎて、召喚の際、近くの次元が崩壊して、その近くの次元、座標にいた私もこの世界に落ちて来たというのが、私の最初の状況だったらしい。
もしも地母神様が召喚の際に安定していたら、私とサナと三人旅だったのだろうか?
現在、アンテナである私がこの世界にいることによって、地母神様からみた元の世界、つまり今の私達がいる世界にいる真核たる地母神様と、吹き飛ばされ散らばった多次元世界にいる小さい地母神様達(本人談)のネットワークがリンクしはじめた状態であるので、これがうまく行けば元の世界に集まれることも不可能ではなく、地母神様が私に力を貸すこと自体は吝かではないらしいのだが、その貸せる力や時間に大きく制限があるのが現状だそうな。
祈らず、願わず、捧げないのでは、力の貸しようがない。というのが地母神様の立ち位置らしい。
なんとなくだが、地母神様の口ぶりによると、私に似たような境遇の人が、他にもいそうだな。
ミツキッス。
実はアタシ、宙転神と夜天神、この二柱の神様の話、本で読んだことあるんスよね。
いや、名前までは知らなかったんスけど、全母神様と全父神様との間に最初に生まれたお子達だったッスけど、神として地上には降ろさなかった。という存在だったはずッス。
次回、第七五五話 「夜天神」
それにしても神話を神様自身から聞くなんて、なんか、凄いッスね。




