第七五三話 「地母神ウィズ・キュノミス」
地母神様が心を読んだのか、それとも同じ印象を感じたのかは分からないが、手のひらを返すようなエルサインをしながら、そう笑いかけている。
結構、気さくな神様なのかもしれない。
「時間が限られているから手短に済ませるわね。
って、やっぱり引っかかって邪魔ね。」
羽根が羽衣に引っかかるのが不快なのか、あるいは角と髪飾りが干渉し合うのが嫌なのか、地母神様はそういったかと思うと、羽根、尻尾、角をスルスルと身体に収納?吸収?してしまった。
仕舞えるんだそれ。
「ああ、時間が限られているっていうのはね、私がこの神殿に神として降りられる時間に制限があるっていうこと。
その時間は一回に捧げる和合水の量に比例するから、次から覚えておいてね。
と、いっても、」
そこまで一気に話した後、地母神様は、左目を左の手のひらで隠し、すうっと、サナ、ミツキ、チャチャ、サオリさんを眺め見る。
「ふ、む。
この先の授法の儀式も事を考えると、無駄遣いはしないほうが良さそうね。
それにしても、お手つきなしの眷属って、器用というか、奇特というか……。
貴方自身も男と和合していないようだし、色々想定外だわ。
もっとも、それをしていたら、今よりは異能は強くなるけど、さっきまでの私と同じ姿になって、穴に喰われる事になっていたかもしれないけど。」
一気にまくし立てた後、地母神様は下からおっぱいを支えるように両腕を組み、ちょっと呆れた顔をした。
って、情報が多い。
穴に喰われるって、なんだ?とか、色々聞きたい事が多すぎる。
「とりえず、この限られた時間の中で、貴方に選ぶことが出来るのは三種三回。
眷属に授法の儀式を行う事。
レーン、及びレンを地母神の勇者として帰依の儀式を行う事。
1つ質問をすること。
一つづつ選んでもいいし、3回全てを質問に当ててもかまわないわよ?」
地母神様はそういって、私を見つめる。
淫魔の自分と同じ顔、同じ声なので落ち着かない。
いや、考え方が違うな。
本来の身体ではない淫魔の身体に自分が慣れすぎているのだろう。
あるいはオリジナルを前にレプリカである自分の身体が畏れに似た感覚を持ってしまっているのかもしれない。
今日、種族特性【神殿】を使ったのは、種族特性【淫スキル】を習得させ、サナの体調を治すためだったが、いきなり選択肢が広がってしまった。
さて、どうしたものか……。
▽▽▽▽▽
「私の現状とそれに伴う貴方達への影響ね。
そうきましたか。」
私の1つ目の質問に、地母神様は腕を組んだまま、少し天井を見上げ、何かを思案しているようだ。
今回使っている種族特性【神殿】は、『堕ちた地母神と交神するための神殿を作成することが出来る』能力だ。
そう、目の前の地母神様は地母神様でも『堕ちている』はずなのだ。
地母神様自身が堕ちているのか、それとも堕ちている側面があるのか、あるいは堕ちている分体なのか、色々なパターンはあるのかもしれないが、まずは頼って安全なのかを確認しなくては、私の身体の事は今更ともかく、サナの事を頼むわけにはいかない。
うまくいけば、私が淫魔の身体を持つ理由や、さっきの地母神様の話にあった危険性の話なども聞けるかもしれないと思っての質問だ。
「そうね、どこから話したら良いものかは、この神の身でも悩むところだけど、簡単に言えば、兄弟喧嘩が原因なのよ。
この世界の理に関することだけど、聞かせてあげるわ。」
地母神様は、台座の上に腰をおろし、両腿の横の台座の縁に両手を置きながら「貴方達から見れば、神話の話になるのでしょうけども、」と、話始めた。
要約するとこんな話だ。
まずは二柱の創造神がいて、これが地母神様、海母神様、天父神様、三柱の神様の母と父に当たる。
三柱は人でいう三つ子ではあるが、地母神様の認識では、海母神様が姉、天父神様が弟に当たるのだそうな。
ところが、この三柱の神の前に生まれていた二柱の神様が変節したのが、全ての始まりらしい。
サオリです。
地母神様が目の前におられる、なんてことが、わたしの鬼生の中で思ってもみない事です。
もちろん、儀式などでお力をお与えいただくことなどはあるのですが、こう、面と向かってというのは……。
次回、第七五四話 「二柱の神」
レンさんの姿をしている分、まだ、少し緊張感は少なめですけど……。




