第七四六話 「サオリと露天風呂」
さて、サオリさん、レーダーによると露天風呂からずっと動いていないのだが、結構飲んでたからなぁ、大丈夫だろうか?
2階から階段を降り、暖炉の横を抜け、左手が壁、右手と正面にカーテンが引かれているスペースへとやってきた。
変なスペースではあるのだが、左手の壁の向こうは内風呂と脱衣所になっているはずだ。
で、右手と正面のカーテンの向こうは共に大きな窓になっていて、外が一望でき、その気になればテラスに出ることも出来る。
というか、正面の窓の向こうには露天風呂の浴槽が設置されていたりする。
つまり、ここのカーテンを開ければ露天風呂が丸見えなのだ。
建物の造り的に後付で露天風呂をつけたのだろうが、まるでラブホテルだな。
いや、淫魔法【ラブホテル】で繋げている部屋なので、文句をいう筋合いでもないのだが。
覗くつもりはないのだが、いきなり露天風呂に乱入するよりは良いだろうと思い、正面のカーテンを半分だけ開け、窓の外を覗く。
そして、サオリさんと目が合った。
……真正面すぎる!
露天風呂の浴槽の幅が窓1枚分。
奥行きは大人が横になれるくらいで、窓の反対側から掛け流しの温泉が浴槽へと注がれていた。
なので、サオリさんが、こちらの窓側を頭に横になって浸かるのは分かる。
ただ、夜なのでライトアップされているのが予想外だった。
浴槽の両縁に両手をそれぞれ投げ出し、ふはぁ、という声でも上げていそうな蕩けた顔で、天井を眺めていたであろうサオリさんの裸体を、上から覗き込むような形で目があってしまったのだ。
惚けていたサオリさんの瞳が、キリッと戻り、代わりにポカンと口が開く。
『あっ……』
そんな空耳が聞こえた瞬間、カーテンを閉め、窓を背にする。
完璧に覗きだこれ。
▽▽▽▽▽
キャーという悲鳴と水音が窓の向こうから聞こえてくる。
なんて事はなく、代わりに窓をノックする音が聞こえる。
『レン君、レン君、顔を出して?』
続いて念話での催促も飛んできたので、サオリさんが怒っていないかと、恐る恐るカーテンを開けると、今度は片手で胸を隠した格好のサオリさんと目が合う。
嘘。
先に一回、隠すことによって強調された胸の谷間に視線が行きました。
すみません。
サオリさんは、そのままの格好で窓を開けようとするが、当然鍵がかかっているので開かない。
と、いうか、この窓を開けたら、何かの拍子でこのスペースが温泉のお湯びたしになりそうだ。
窓が開かないので力を入れようとしているのか、浴槽のなかで膝立ちになって更に手を伸ばすサオリさん。
このまま立ち上がられたら、それこそ丸見えになってしまう。
仕方がない、ちゃんと怒られに行こう。
『今、そっちに向かいますから、風呂に浸かって待っていてください。』
『はーい。』
念話での返事は軽く、怒っている様子はなさそうだ。
素直に窓に背を向け、浴槽にその白い肌が浸かるのを確認してからカーテンを閉めた。
▽▽▽▽▽
「レン君のえっち。」
「違います!」
いや、違わないか。
脱衣所から内風呂の横を抜け、裏口から露天風呂のスペースに入った途端、そういわれながら、お湯をちょっとかけられた。
サオリさんは怒っているどころか、まだお酒が残っているのか、ご機嫌な様子でクスクスと笑っている。
「ほら、濡れた服は脱いで、レン君も一緒に入りましょうよ。」
サオリです。
次に入る人の事を考えずに、こんなにゆっくり、ゆったりと温泉を楽しめるなんて、凄い贅沢な感じがしますね。
ちょっと浴槽の幅が狭いのは気になりますが、足もゆったり伸ばせますし、これはこれで専用という感じがして良いものです。
次回、第七四七話 「サオリとレン君」
……って、レン君?




