第七四三話 「ミツキとパパ」
最後の言葉が兎人語だったところをみると、今日は甘えたい気分なのだろう。
「いいよ。」
そう一声かけ、扉を背に腰を下ろすと、それに縋り付くようにミツキも、しなだれかかる。
改めてミツキの肩を抱き寄せ、密着度を高めると、ミツキも私の背中に回した手を首へと回しなおし、唇を寄せてきたのでそれに答える。
「んっ……。」
ミツキの吐息とも声ともつかない音が、静かな寝室に響く。
「パパ、ちゅー、もっと……」
今日は酔ってるせいか、随分甘えたさんだな。
再びミツキの唇に口寄せ、ついばむようなキスをすると、満足したのか、おでこを私の胸に擦り付けるよう、また抱きついてきた。
首というか顔が、ウサ耳に挟まれるような形だな。
「ミツキ。」
「ん?」
「本当にお疲れ様。
ミツキがいなかったら、こんなに早く里の不妊問題を解決出来なかったよ。」
「そんなことないッスよ。」
おや?鬼族語に戻ってしまった。
「そんなことなくないさ。
ミツキの魔法効果解除魔法のおかげさ。」
ミツキの頭を撫でながら話を続ける。
「それだって、パパの『レベル上げ』のおかげッスよ。」
「違うね。」
ミツキの私なんかといいたげな言葉を食い気味に否定する。
「普段からミツキが私達のパーティーの、いや、家族全体の事を補佐するような選択をし続けてくれた結果だよ。
いつも私達みんなの事を気にかけてくれていて、ありがとう、ミツキ。」
そういって改めてミツキを抱きしめる手に力を込める。
いつも一歩引いて、自分のやりたいことよりも、私達に必要なことを一番に考えてくれているミツキ。
その想いと行動の結実こそが、今回の件の早期解決に繋がったと私は思っている。
「がんばったね。よくがんばった。偉いぞミツキ。」
再び、ミツキの頭をゆっくりと撫でる。
頭の形を確かめるように、うなじに至るまで、ゆっくりと大きく。
「んぐっ……」
ミツキの口からくぐもった声が漏れたかと思うと、ゆっくりとミツキが顔を上げた。
「アタシ、ちゃんと頑張ったッスか?
みんなの、パパの力になれてるッスか?」
ポロポロと涙を流しながら、不安そうな瞳で見つめてくるミツキ。
「もちろんだとも、ミツキ。さすが私の愛しい娘だ。」
そういって、頬に手のひらを添え、親指で涙を拭ってやると、ミツキは目を細め笑顔を作ろうとする。
「無理に笑顔を作らなくてもいいよ、ミツキはミツキのままでいいんだよ。」
そう告げると、ミツキは頬に当てている私の片手を両手でそっと握り、目を伏せ、愛おしそうに頬ずりする。
しばらくの沈黙。
そして、
「パパ、大好き。
アタシ、パパと出会えて、本当に幸せです。」
はにかむような笑顔で、そう兎人語で告白したミツキの顔は晴れやかだった。
▽▽▽▽▽
乙女のようなその笑顔が可愛くて、ミツキのおでこにキスをしてしまうと、我に返ってしまって恥ずかしいのか、再び、おでこを胸に当てるように抱きつき直すミツキ。
さっきまで垂れていたウサ耳も、すっかり元気を取り戻しているが、照れているのか、内側が朱に染まっている。
ちょうどいい位置にあるので、首を回し、唇でそっとそれをはむ。
そのまま、ウサ耳の天辺まで甘噛をつづけ、こんどは下へ。
根本までたどり着いたので、耳の根元のモフモフとした場所に鼻を埋め、南国のフルーツを思わせるミツキの体臭を胸いっぱいに吸い込むと、ミツキの身体が電気でも流れたかのように震えた。
「ちょっ、パパ、いま駄目ぇ……。」
私の両肩を両手で掴み、そう絞り出すようにいうミツキ。
「なんで?」
嫌がってはいなさそうなので、もう片方のウサ耳へと取り掛かる。
今度は根本から一周しようと、甘噛した瞬間、
「パパが好きすぎて、えっちしたくなっちゃう……。」
ウサ耳を真っ赤にして、目をそらしながらミツキはそういった。
サナです。
えーと、金網と炭はそのままで良いんだっけ?
じゃ、だいたい外は片付いたかな?
え、うん、良いと思う。
いってらっしゃい。
次回、第七四四話 「サナと台所」
それじゃ、あたしは洗い物と明日の朝ごはんの準備しちゃおうかな?




