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第七三五話 「ミツキの目標」


 チャチャの今までの人生は、決して幸せなものではなかったであろう。


 両親に虐待され、あれだけ辛い思いをしてきたというのに、それでもなお、妹たちにそうしてあげたいと思える、その光を目指せる心こそがチャチャの素晴らしいところだと思う。


 「……そうか、うん、素晴らしい。とても素敵な目標だと思うよ。」


 そのまっすぐな瞳が眩しすぎて、思わずチャチャの頭を抱きかかえ、自分の寄る辺のない胸中ごと撫でていく。


 「うにゃー、褒められたにゃー。」


 ピコピコと動くチャチャの猫耳をぼんやりと眺めながら手を動かしているうちに、ミツキと目があった。


 「……チーちゃんは凄いッスよね。」

 「そうだな……。」


 私もミツキも、チャチャのように、まっすぐに明るい未来だけを見ることが出来ないタイプだ。


 常に過去に足を囚われ、過去を踏み潰しているうちに、現在いまに流される。


 そんな我々から見れば、今を生き、未来を疑わないチャチャの生き方は美しく、憧れすら感じてしまう。


 「あ!一応、アタシにも目標はあるんスよ!」


 一瞬、暗くなってしまった雰囲気を払拭するように、明るい声をあげるミツキ。

 また気を使わせてしまったようだ。


 「ほう、なんだい?」


 その心意気に合わせて、ちょっとおどけた声で返す。


 「薬師の真似事をしてみようかと思ってるッス。」


 胸の前で、ゴマをするようなジェスチャーをしながら、ミツキがそんな事を言い出した。


 「なんでまた。」


 「一応、ちゃんとした理由はあるんスよ?」


 ミツキの語った理由とは、ある意味、非常にミツキらしいものだった。


 今、ミツキやチャチャが里に滞在できているのは、勇者とほぼ認められた私の娘だからに過ぎない。


 端的にいうと勇者のおまけという立場なのだ。


 だから、もし、何かがあった場合、お前たちだけ出て行け。といわれる可能性は否定できない。


 もちろん、私がそんなことをさせるわけはないのだが、そんなことをさせるわけがないようなことを私にさせたくない、と考えるのがミツキだ。


 リスクを先に潰して置きたいタイプと言い換えてもいい。


 では、どうするか?と考えた時、意外とその発想はシンプルだった。


 要は勇者ほどではなくても、里にとって有益な人物に、あるいは、いなくなられては困るような人物に、自分たちがなれば良い。という発想だ。


 これは井戸を浄化して回っているときに思い付いたらしく、特に集団診察が終わった後の井戸の浄化では、「貴方達が里に来てくれて助かったわ。」的な言葉をよくかけられたそうな。


 鬼族の里では本来異物である自分たちに、そんな評価をして貰えるなら、と、手ごたえを感じたらしい。


 じゃあ、なんで薬師なのかというと、ミツキの職業である野伏のぶし自体が、薬、というか毒と縁遠くないのもあるが、なにより薬のレシピを読み、調べ、考えるのが楽しそうだから、というミツキらしい理由だった。


 ちなみに作る方には、それほど熱意はないそうな。


 「だって、パパが作った方が良いもの出来るのは分かってるッスし、材料の無駄ッス。」


 という論理的ロジカルな発想もミツキらしい。


 私が勇者としてだけじゃなく、医者として振る舞うのなら、薬師として傍にいて知識をサポートする人がいた方が、それっぽいだろう。との事だ。


 「パパの魔法やスキルって結果だけをドンって出すから、胡散臭いんスよね。

 だから、そこに薬や知識を組み合わせると、説得力が出ると思うんスよ。」と、いわれると返す言葉が無い。


 確かに、いちいちスキルを検索して薬の効果を探したりするよりは、ミツキに覚えて貰って、随時サポートして貰える方が、正直助かる。


 なにより、薬師としても一緒に傍に居たい。という、ミツキの気持ちを汲んでやりたいという気持ちも大きい。


 「そうだな、うん、それは助かる。」


 「分かって貰えて良かったッス。


 で、早速、その薬の事なんスけど、パパが作ってくれた魔力回復薬。

 あれ、たぶん、副作用みたいなものがあるッス。」


 「え?!」



 チャチャにゃ!


 ととさんに褒められちゃったにゃぁ。

 照れちゃうにゃぁ。


 頑張っていっぱいお料理覚えるにゃ!


 次回、第七三六話 「魔力と疲労」


 うにゃぁ、ととさんに抱っこして貰っていると、暖かくて眠たくなってきちゃうにゃぁ……。

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