第七三四話 「里での夜」
まるで自分が犬になったように、あるいは猫を吸うようにサナの香りを鼻いっぱいどころか胸いっぱいに満たすように深呼吸をする。
特にここ、角の付け根。
淫魔法【ラブホテル】の別荘暮らしで、朝晩と温泉に入れた頃に比べると、どうしても入浴回数が減り、それでもちゃんと水浴びでもしているのだろうが、それでも残ってしまうサナの濃い、本来の匂いが鼻をくすぐるどころか、ちょっと背筋までプルッとくる。
サナはかなり早い段階から【ラブホテル】で入浴をしているせいか、こういう濃い香りは新鮮だな。
「ちょっと、お父さん……」
「いい匂いがする……」
「もう……」
照れながらも大人しく匂いを嗅がれているサナ。
お言葉に甘えてもうちょっと吸おう。
「……濃くて癖になりそうだ……」
「?!もう!」
あ、逃げられた。
「まだ、あっちのお家と繋がってますよね?!あたし、お風呂入って来ます!」
そのまま台所の方へと消えていくサナ。
このサナに逃げられて伸ばした両手の行き場に困っていると、くすくすとサオリさんに笑われた。
「それは恥ずかしがりますよ。
人族でいうと……そうですね、こう、胸のこの辺りの匂いを嗅がれるみたいなものですから。」
サオリさんがそういって片手でその豊かな胸を持ち上げ、その下の付け根を指差す。
ちょっと、いや、かなりセクシーだ。
「……レン君、よく嗅ぎますよね。」
あっ、はい。
だって、サオリさんのそこ、凄く蠱惑的な香りがするんですもの。
いわれてみれば、そのサオリさんの匂いも、さっきのサナの体臭とも似てるかもしれない。
「もう!わたしだって恥ずかしいんですよ?
じゃ、わたしもまたお風呂いただいてきますね。」
ぽっと頬染めながら、そういってサナを追い、台所へ消えていくサオリさん。
どうやらサオリさんにとって河原の露天風呂と別荘の温泉は別腹らしい。
その代わりといってはなんだが、ミツキとチャチャのコンビが戻ってきた。
「なんスか?そのポーズ。」
手を伸ばしたティディベアのような格好をミツキにつっこまれる。
「あー、これはね……チャチャおいで!」
前習いのポーズから手を広げ、サナに逃げられた空間にチャチャを呼び込む。
「うにゃ?」
かくん、と首をかしげながらも、小走りで胸に飛び込んでくるチャチャ。
「はい、ぎゅー。」
「ぎゅー、にゃ。」
そのまま抱きしめ、抱きしめられる。
チャチャとこういうのは珍しいな。
「ととさんとねねさんのにおいがするにゃ。」
クンクンと鼻を鳴らしながら胸元の匂いを嗅ぐチャチャ。
チャチャはサナに比べると少し体温が高い感じがするな。
臭いというわけではなさそうなので、そのまま胸元の頭を抱きかかえるようにして頭を撫でてやる。
と、そういえば、
「ミツキは、台所の片付け組を目指すことにしたのかい?」
「あ、わかるッスか?
いや、チーちゃんに目的が出来たっていうんで、作る方はサナちーと、チーちゃんに任せようかと思って。
ほら、アタシ、片付ける方は白角亭で慣れてるッスから。」
ミツキがそういって人差し指でポリポリと頬を掻く。
「チャチャの目標?」
「あい。
チャチャ、料理がうまくなりたいにゃ。
そしてそして、次に会った時に、ねねさんみたいに妹たちに美味しい料理つくってあげたいにゃ。」
目を輝かしてそう力説するチャチャだった。
サナです。
もう、お父さんったら、二人だけのときならいいけど、綺麗好きのお母さんの前であんなこといわれたら恥ずかしいです。
もちろん角の付け根は綺麗にしてるつもりだけど、櫛も通しづらいところだから、どうしてもお手入れが行き届きづらいんですよ。
次回、第七三五話 「ミツキの目標」
あれ?お母さんも来たの?
あ、うん、別にいいけど……え?娘さん洗い?




