第七二七話 「儀式魔法」
手品師というより詐欺師のような口上になってしまったが、一応、サビラギ様のアドバイスがあってのことだ。
要は「簡単に使える魔法だと思われると依頼者の切りがなくなる。」らしい。
ちなみに儀式魔法の定義は、通常3体以上の術者または術具を必要とする魔法なのだそうな。
通常、この術具として【魔力操作】の効力を持たせた祭壇や魔法陣、あるいは専用の部屋などを用意して、魔力の集約を行なったり、同調魔法や同期魔法を補佐させたりするらしい。
簡単に言えば、儀式魔法は普通、専用の装備・設備がないと唱えられない魔法。と、いうことだ。
逆にいえば、優れた術者が3人以上いれば、唱えられるということで、そういう意味での驚きの声が、集会場に集まっている人達から上がっている。
よし、じゃ、場が盛り上がっているうちに済ませてしまおう。
▽▽▽▽▽
「サナブリ様、それではそろそろ始めます。」
「それはかまわないが、大丈夫かい?」
「大丈夫ですよ、痛みとかはありません。」
「あたしの事じゃないよ、婿殿のことさ。
ここまで皆の前で大口叩いたんだ、出来なかった。じゃ、すまされないよ?」
私にだけ聞こえるくらいの声で、そう語りかけながら、腰の帯を解き、貫頭衣を脱ぐサナブリ様。
その姿は堂々としており、それでいて優雅だ。
脱いだ貫頭衣も流れるように畳み、膝の上に置き、両手をその上に重ねる。
ピンとした背筋とまっすぐステージ下を見つめる目、そしてその佇まいと雰囲気が、自然に会場を静かにさせていく。
ただれたように赤黒くなっている皮膚癌が、その片胸をほぼ覆っているが、それを晒してさえ、なお、凛とした美しさを感じる。
「ご安心ください。早乙女家の顔を潰すことだけはしませんよ。」
「そうか。じゃ、やってみせな。」
改めて、胸を張り、まるでこれから切腹でもするような雰囲気のサナブリ様に一声かけて、耳たぶに傷をつけ、血液を分けてもらう。
既に私の両肩には、ミツキとチャチャが片手を乗せ、二人は反対の手をサナと繋いでいた。
サナの横には魔力回復薬を持ったサオリさんが控え、魔力不足に備えて貰っているが、現在、全員の合計魔力は5,400を超えている。
チャチャを丸々再構築した時でもかかった魔力は5,000ちょっとだったから、たぶん魔力回復薬まで手をつけなくても足りるだろう。
今回は、ステージ下に集まっている人達に見せるため、私はサナブリ様の座っている椅子の後ろに立ち、淫魔法【おっぱいの神様】を発動させると、私の足元と頭上に紫色の魔法陣が現れゆっくりと回転しはじめた。
親指に乗せていたサナブリ様の血を舐め取って必要情報を読み取り、両手を大きく広げると、今度は両手の手のひらの前にも魔法陣が浮かび上がり、自分を中心に四方で広がった魔法陣が、色を濃くしながら少しずつ小さく収束していく。
両方の手のひらの中に収まるほど小さく収束し輝きを増した魔法陣を手に、椅子の後ろからサナブリ様の肩越しに両胸に触れる。
サナブリ様の両胸に移った魔法陣が回転を速めていき、それと同時に私の魔力を凄い勢いで吸い上げていくが、それに合わせたようにミツキを通してサナの魔力が流れ込んで来て、過剰に供給された分はチャチャを通じて循環していく。
【おっぱいの神様】の発動自体は、なにげに回数を重ねているので心配はなかったが、この魔力供給だけが不安材料だった割に地底湖での魔力循環が良い練習になったのか、非常にスムーズで、強いて言えば、チャチャの方へ流れていく魔力が少し抵抗を感じる程度だ。
これなら間違いなくいける。
「このまま、一気にいくよ!」
「はい(ッス)(にゃ)!」
▽▽▽▽▽
「どうです?まだ痛みや違和感はありますか?」
「そうさね……。」
術後、真っ白な肌を取り返したサナブリ様が、そういいながら、まるでダンベルでトレーニングでもするような腕の動きをさせながら、グー、パーと手を握ったり開いたりしている。
その後、軽く肩を回し、そのままスッと膝に置いていた貫頭衣を手に取り、被り、帯を締めたかと思うと、
「サビラギ、ちょっと近くに来な。」
そう声をかけた。
サナです。
感覚的な話なんですけど、ちーちゃんよりはミツキちゃんの方が、ミツキちゃんよりはお父さんの方が魔力の受け渡しが円滑な感じがします。
ミツキちゃんとは、よく魔法を唱え合うので、そのせいだと思うんだけど、お父さんとはなんでだろ?
次回、第七二八話 「術後」
なんにせよ、術は成功したみたいなので、何よりです!




