第七二三話 「鼻歌」
「~~~~♪」
遠くで歌が聞こえる。
「~~♪~~~~♪」
鼻歌?いや鼻歌というにはハッキリとした音が聞こえる。
「にゃーにゃーにゃにゃにゃ♪にゃにゃにゃにゃ~♪にゃにゃ♪」
あ、これ、チャチャだ。
淫スキル【睦言】でも翻訳されないので、歌詞を覚えてない曲を、そのままにゃーにゃー歌ってるのだろう。
場所は……ああ、結局昨晩は淫魔法【ラブホテル】で繋げた、いつもの別荘で寝てしまったので、そこのキッチンの方か。
離れにいないので、こっちまで探しに来たのかな?
布団の上で、左右の腕をサナとミツキに抱きつかれながら、そんなことをぼんやりと考えている。
昨日の晩は寝るのが遅かったので、正直まだ眠い。
まどろみながらも、しばらくチャチャの歌を聞いていたが、そのうち歌声が止み、こちらへと歩いてくる足音が聞こえる。
「ねねさん起きたにゃー?」
扉を開けて、ひょこっと顔を覗かすチャチャ。
ちょっと大きめのエプロン姿が可愛らしい。
「おはよう、チャチャ。
サナはまだ寝てるよ。」
小声でチャチャにそう返す。
「ととさん、おはようにゃ。
うにゃ~困ったにゃぁ。」
ちょこちょことこちらに歩いてきて、枕元に座るチャチャ。
「どうしたの?」
「ねねさん寝てたから、チャチャ、ご飯作ったにゃ。
ご飯炊いて、お味噌汁もつくったんにゃけど、おかずをどうしたらいいか分からないにゃ。」
身振り手振りを交えてそう説明するチャチャ。
一人でそこまで作れるようになったなんて大したもんだ。
おかずをどうしたら良いのか分からない、というのは、どの程度のものを作ったら良いのか、あるいは、どれくらいの材料を使っていいのかが分からない、と、いったニュアンスっぽい。
「ふむ……。」
少し考えた後、メニューのアイテム欄から、生鮮食品保存用のバックを取り出す。
と、いっても、両腕がふさがっているので、枕元にポンと出した感じだ。
「それなら、こういうのはどうだろう?」
▽▽▽▽▽
「レン君、おはようございます。」
開いたままの扉の前を、今度は湯上りのサオリさんが通りかかる。
久しぶりに別荘と繋がっていることをいいことに、朝風呂としゃれこんでいたようだ。
「昨日は、こっちで休んでいたんですね。」
「探させたみたいですいません。」
朝、起きたら離れにいなかったので、チャチャと一緒に探しに来たというサオリさんにそういって頭を下げる。
「ん……、あ、お父さんおはようございます。」
「おはよう、サナ。」
その話声で、ようやくサナは目が覚めたようだ。
「あ、え?あ、あたし、寝過ごしちゃった!?」
一拍置いた後、跳ねるように飛び起きるサナ。
「ごめんなさい、すぐに朝ごはんの用意しますね。」
「大丈夫、大丈夫、慌てなくていいから、台所の方にいってごらん。」
はい。と返事をした後、サオリさんにも挨拶をして、その横を抜け、台所に向かうサナ。
「うふふ、サナが寝坊なんて、めずらしいわね。」
「うー、朝ッスか……、もうちょっと待って欲しいッス。」
何を待てというのか分からないが、寝ぼけながらもミツキも目を覚ましたようだ。
時間的に考えて、ちょうど良い頃合いだろう。
寝乱れているミツキのパジャマを軽く整えてやり、一緒に居間の方へと向かおう。
サナです!
寝坊しちゃった!
はやく朝ごはん作らなきゃ……え?ちーちゃん?
これ、全部ちーちゃん作ったの?
凄い!頑張ったね!
次回、第七二四話 「チャチャの朝食」
お米やお味噌は離れにも置いてあったけど、これは?
あー、お父さん、出してくれたんだ。




