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第七十一話 「爆発」

 ヤバーい!

 朝食用意されたときも相当ヤバかったけど、勇気を出して材料買いに行って自ら私のために作ってくれた料理とか嬉しすぎる。

 幸せすぎてサナに殺される。


 私みたいな安上がりな男には致死量の愛情表現だ。

 自分の為に何かをしてもらう。という事に飢えているのだ。

 手を洗いながら鏡に映る浮かれ顔を見ながら、そんなことを考える。


 危うくベッドに運んでしまうところだった。

 というか、角で止まらず唇にキスしてしまった段階でそうとうやられてた。

 ちょっと落ち着くためにここに逃げて来たのだ。


 もうすぐサナの発情期が終わるのだから、ちゃんとそういう欲求に流されないようにせねば。

 発情という生理現象の解消の相手はOK。

 自分の性欲の解消としてはNG。

 たとえそれが純粋な愛情表現に基づくものでも。


 義理とはいえ親子なんだから、ちゃんと線引きしなくては。

 昨日あっさり超えてなかったか?というのは棚に置いておくとして。


 今はラブホテル的な意味じゃない方の休憩で部屋に入ってるのだから、ちゃんと休まなくては。

 今後、『レベル上げ』が出来なくなるんだから、サナの経験値をもう少し稼いでおいたほうが良いんだし、そのためにはもう少し戦っておいた方がいい。


 夜市がやっている時間までには戻るとしても、まだ最大で5~6時間くらいは大丈夫だろう。

 さっきみたいに移動時間が無い分、もっと効率よく稼げるとは思う。


 よし、少し冷静になった。

 部屋に戻ろう。


 「お待たせ。サナお手製のおにぎり、楽しみだな。」

 駄目だ。

 にやける。


 「あまり期待されると緊張しちゃいます。握っただけだし。」

 ちょっと照れているようなサナ。

 ん?今日は向かい合わせじゃなくて隣同士で食べるのか。


 「「いただきます」」

 いつものように二人とも手を合わせ、さっそくいただく。

 まずはメインディッシュのおにぎりを一口。


 ん、ちゃんと外側にも塩味ついてる。

 さすがに中は梅干しとはいかなかったものの、ザーサイに似たような漬物が代わりに入っている。

 これ夜市で摘んだやつだな。


 「美味しい!」

 「ホントですか?」

 「ああ、もちろん。中の漬物はともかく外側のお塩はどうしたの?」

 「お店のおかみさんに少し分けて貰いました。あとは2階の炊事場でちゃちゃっと握って外の品と一緒に鞄の中に。」



 なるほど。

 「その後、朝ごはんも用意してくれたのか。ありがとう。」

 おにぎりを持っていない方の手でサナの頭を撫でる。


 次はソーセージいこうか。

 ティーソーサーの上に並んでいるソーセージを一個摘まむ。

 あれ?温かい。

 電子レンジ使った?って使い方教えてないか。

 先に冷めないうちに噛り付く。


 若干血の味が濃いような気がしないでもないが、香草も効いていてなかなか美味しい。

 「これ温かいけど、どうしたの?」

 「カップとお湯で温めてみました。温かいものも一品くらいあった方がいいと思って。」

 ボイル風か。

 これは気遣いが嬉しいな。


 「ありがとう。やっぱりソーセージは温かいほうが肉汁を感じられて美味しいな。」

 「そーせーじ?ああ!そうですね、お父さんが喜んでくれて嬉しいです。」

 くそう、片手におにぎり、片手にソーセージと手が塞がっていて頭を撫でられないのがもどかしい。


 「そこにある電子レンジという機械でも食べ物温めることできるんだよ。」

 「そうなんですか?後で教えてください。」

 「ソーセージは爆発するかもしれないけど。」

 「爆発!?なんで食べ物が爆発するんですか!?」


 電子レンジの原理を理解させるのは難しいので、密閉された容器や食べ物は熱で中身が膨らんで爆発することがあると説明した。

 あとは金物をいれると危ないので注意することも。


 「まあ、理屈はともかく、そういう道具なんだよこれは。」

 「凄いですね。火やお湯を使わなくても温められるなんて……お父さん、卵焼き温めてみてもいいですか?」


 早速サナが興味を持ったので、せっかくだから使い方を教えておく。

 『あたためる』という文字さえ覚えて、あとは一気にタイマーをセットせず1分ずつとか小まめに中身の温度を見ながら何度も温める方法なら説明もそう難しくない。

 幸いにこの部屋の電子レンジはツマミ式なので、デジタルタイマー式よりは説明が楽だ。


 「なんか光って回ってます。」

 「音が鳴って止まったら、蓋を開けて温度を確かめてみて。」

 「はい!」

 その間に2個目のおにぎりを貰う。

 サナの手のひらのサイズなので、ちょっと小さ目なのがカワイイ。

 今度の具は甘辛く煮た魚のようだ。

 生姜のような風味もして、なかなかご飯に合う。


 やがて電子レンジから音楽が流れる。

 最近はチーンとは鳴らないもんな。

 サナは電子レンジをあけ、卵焼きの温度を確かめている。

 「もうちょっと温かくてもいいかも?」

 「それなら、もう一回同じように温めてごらん。温めている物の重さや水分の量によって温まる時間が変わるんだよ。」


 元の世界の数字とグラムという概念を教えるより感覚的に覚えた方が早いかな?と思ってそう教える。

 でもそのうち数字くらいは教えた方がいいかもしれない。

 ラブホテル内の時計とかの問題もあるし。


 2本目のソーセージを食べ終わったくらいにもう一度、電子レンジから音楽がなる。

 満足いく温度だったのかサナは一口試食してみている。


 「あふ、内側の方が熱くなるんですね。あ、でも温かくて美味しい。」

 「どれ一口。」

 そういって口を開けるとサナはぴょこぴょこと歩いてきて卵焼きを口に入れてくれたので、代わりにおにぎりを一口噛ませる。

 これ、前に朝市で食べた卵焼きだな。謎のハムの駒切が入ってるやつ。


 「うん、美味しいね。もしかしてお弁当用に硬めに焼いて貰った?」

 「はい!焼き過ぎない方が美味しいですけど、日持ちが心配だったので。あ、おにぎりの具、魚の生姜煮も美味しいですね。」

 口に手をあててモグモグしているので、タイミングを見計らってもう一口食べさせ、残りは自分の口に放り込む。


 ポテトサラダっぽいものにはティースプーンが2本刺さっているので、すくって一口食べる。

 元の世界ほど芋に甘味は無いが、これはこれで悪くない。

 食感のアクセントに玉葱っぽい野菜とキュウリのようなピクルスが刻んで混ざっている。

 外に混じっているオレンジ色の粒はニンジンみたいな野菜らしい。

 マヨネーズっぽいものは独特の風味があるな。


 「その『ぽてとさらだ』は出来合いのものですけど、どうですか?」

 「うん、悪くない。健康になりそうな味がする。」

 「なんですかその健康になりそうな味って。」

 そういってサナはクスクスと笑う。

 ちょっと酸味が強くてクエン酸を思い出してしまったのだ。


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