第七一五話 「鬼灯提灯」
煙幕が晴れるのは私がいる手前からなので、海老ボクサーから見ればまだ手元が見えない状態、かつ、射出じゃなくそっと置く形での魔法発動は、その手を引かせるのを一瞬遅らせた。
なんとなく、水の動きで魔法や攻撃を先に感知してるだろうという読みは当たっていたかな?
束ねて縛られた両のハサミの上に、海老ボクサーの身体の半分ほどの大きさもある岩石がのしかかり、その動きを封ずる。
もちろん、サナ、ミツキ、チャチャの三人による同調魔法を使った単体土魔法の効果だ。
それによって手を引くことも、身体を大きく動くことも出来ない海老ボクサー。
こうなってしまえば、その額の魔素核を捉えるのは簡単だ、さっさとドレインしてしまおう。
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魔素核からのドレインで怯んだところに、ミツキが海老ボクサーの左腕の根元への刺突攻撃、チャチャがそれに合わせた左肘あたりを狙ったハンマーでの打撃攻撃でその左腕が外れ、暴れた勢いで封じられたハサミを支点に腹を見せるようにひっくり返ったので、更に生殖器が位置する場所へのドレイン。
ラストは呪弓を使った、サナの単体雷魔法を付与した矢が海老ボクサーの口に吸い込まれるように刺さり、その電撃でトドメとなった。
追加の体力ゲージ持ちの割に思ったよりサックリ倒せたな。
やはり動きを止められたのが大きかった。
魔力供給をチャチャが担うだけでも、だいぶ魔法の使い方の選択肢が増えるようだな。
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「たんたんしか落とさなかったにゃぁ。」
「ランタンね。」
鬼灯提灯手長海老の巨体が消えた後、ちょっと残念そうな顔をして、チャチャの身体からすると一抱えもあるランタンを拾ってきた。
洋風の拵えのランタンで、中には鬼灯の実を逆さにしたような装飾が朱色の電球のように光っている。
と、いうか、鑑定すると『鬼灯提灯』という名前で、今も周囲の水を鬼灯水に変えていってるようなので、さっさとメニューのアイテム欄に仕舞う。
幸い、鬼灯水は一定の濃度が必要らしく、今は水で希釈され消えていってるので、一安心だ。
「ご主人様、海老の身体残ってるッスよ?」
チャチャに続いて、ドロップ品を探していたらしいミツキから声がかかったので、そちらに行ってみると、大型犬ほどの大きさもある手長海老の死体がそこには蹲っていた。
「生きてるのかな?」
「いや、死んでるみたい。」
そう鑑定結果をサナに伝える。
おそらく先ほどの鬼灯提灯手長海老の素体になった海老なのだろう。
それにしても大きいんで、もしかしたら、この地底湖の主だったのかもしれない。
「食べられるかな?」
「あー、食べられるみたいよ?」
鑑定結果からすると、死にたてのホヤホヤ扱いなのか、鮮度も十分で食用にも適してるらしい。
「じゃあ、持って帰ろ?」
え?サナ、これ食べるの?と一瞬思ったが、この鬼灯水を作った一応の犯人でもあるので、持って帰るのはアリだろう。
鬼灯提灯に続いてメニューのアイテム欄に仕舞う。
「さっきの骸骨は、アレにロープの先端を引っ張られたんスかね?」
「状況的にそうっぽいわね、
その後、魔素核を使っているらしい、あのランタンが、迷宮の影響もありそうなこの地底湖の魔力を吸い上げて、その影響が海老をも魔物化させた。ってとこかしら?」
「そんなことありえるんスか?」
「そうはいっても、実際、そうなってるみたいだし……。」
ミツキはまだ納得してないようだが、状況的にそうとしか考えられないのだ。
逆にいうと、魔素核と素体と十分な魔力があれば、魔物を発生させることが出来るというヤバイ話なので、後でサビラギ様にでもそういう事があり得るのか聞いて見よう。
念のため、地底湖の残りの部分も『変成の腕輪』を使って鑑定してみたが、他に鬼灯水が発生している場所はなく、あとは大中小の手長海老が住み着いているだけのようだ。
どうやら水上から落ちる蝙蝠の糞とかを餌にしてるっぽいな。
とはいえ、流石に先ほどの主ほどの大きさのものはいないようだ。
「じゃ、そろそろ水の上に上がりましょうか?」
「でも、壁登るのは大変そうにゃよ?」
壁際の水面を見上げて、そう呟くチャチャ。
そういや登ること何も考えないで飛び込んでしまったっけ。
淫魔法【淫具召喚】と【淫具操作】で、どうにかなると、高を括っていたが、そういや上には白家の嫗がいるんだった。
あまり変なことは出来ないか。
「奥の方に坂になっている場所があるみたいだから、そこから上がりましょう。」
地底湖のマップを特性【ビジュアライズ】で表示させて、指を指す。
あちら側から上がれば、上手くいけば骸骨のキャンプも発見出来るかもしれないな。
サオリです。
みんな遅いですね。
なにかトラブルでもあったのでしょうか?
レン君のことだから、何か見つけるのは早い方だと思うのだけれども……。
次回、第七一六話 「遺品」
今のうちにアエにお昼、頼んでおこうかしら?




