第七一三話 「骸骨」
いわれてみれば、確かにチャチャと一緒に行った大聖神国街で働いて、いや奉仕活動をしていた人たちが着ていた服だ。
なんでこんなところに……って、考えるほどでもないな。
白家の聖域にいるはずのない人がいた。と、なれば、当然誰かが連れて来たわけで、その誰かなんてのは、白家の分家出身であるケイジョウでほぼ間違いないだろう。
と、なれば、この地底湖にケイジョウが、あるいは新教の枢機卿が、なんらかの仕掛けをほどこし、その見張りとして、この骸骨の主を残したと考えるのがスマートだな。
食い物などは周りの森で調達していたのかな?
白家の嫗の話によると、この周辺の森は聖域ということもあって、基本的に人が入らないということだったので、それなりに実りは多そうだ。
よくこの洞窟を調べれば、水没して行き止まりだと知られている人の近寄らない場所だかにキャンプでも張ってあるのかもしれない。
「ご主人様、この骸骨の握っているロープ、なんスかね?」
ミツキがレイピアで、骸骨の手元から伸びているロープを持ち上げている。
右手に二巻きした後、そのまま地底湖の奥の方へと続いているが、ほとんどは雑然と骸骨から少し離れた場所に溜まっている。
ぱっと見、結構な長さだな。
地底湖の岸から何か垂らしていたのかもしれない。
だとすれば、それが『鬼灯水』を作り上げている元凶だろう。
「でも、先っぽ切れてますよ?」
ロープの先を追っていたのか、少し地底湖の奥側に離れた場所で、サナがそのロープを手にそういった。
骸骨を置いてみんなで近寄ってみると、どうやら何かで引きちぎられたような跡がロープに残っていた。
「この跡からすると、鋭利な刃物ってわけじゃなさそうッスね。」
「たぶん、水の中から、凄い力で引っ張られたのかな?
それで先っぽが取れちゃって、引っ張られた勢いで、水に落ちちゃったとか?」
「あんなのかにゃ?」
三者三葉の感想を漏らしている三人娘……ん?あんなの?
一拍おいてチャチャが指さした方を向くと、20mほど離れた水中に、白い物体が二つ、離れて上下していた。
なんだあれ?
何回か上下した後、近づいて来たらしく、相変わらず辺りは暗いものの、少しそのシルエットがはっきりしてきた。
「……ハサミですね。」
「二つが結構離れてるッスから、本体デカいやつッスよあれ?!」
「海老にゃー。」
猫人族なだけあって暗いところでも目がいいのか、チャチャが断言した。
改めてその周辺を淫スキル【淫具鑑定】で鑑定し、その結果を特性【ビジュアライズ】で表示させることにより明かり代わりにする。
デカい。
いや、長い?
それでも明らかになったのは大きなハサミが二つで、そこから長い腕が奥へと伸びている。
数度目の上下運動、たぶんこちらを威嚇しているのだとは思うのだが、その後、闇の中にポツンと朱色の灯りが灯ったかと思うと、一気にその海老らしきものが間合いを詰めて来た。
咄嗟に左右に分かれ、避けたついでに淫スキル【性病検査】と【性感帯感知】で鑑定をかける。
その名前は【鬼灯提灯手長海老】
ハサミの大きさはドラム缶ほどで、その腕の長さは4mほどもあるだろう。
その二つの長い腕の中央にある半透明な本体の中には、朱色に灯った洋風のランタンが透けて見えている。
この角度と暗さでは、まだ全体像は掴めないが、体長も腕より短いということはないだろうってあれ?この海老、魔素核が二つある。
迷宮でもないのに何故?と思ったが、体内のランタンが魔素核を使うタイプの魔法具のようで、それを取り込んだことにより魔物化したのかもしれない。
魔素核は海老の額に一つ、体内のランタンの中に更に一つだ。
ひょっとしたら迷宮の魔力もどこかを通じてこの地底湖に及んでいるのかもしれないな。
鬼灯提灯手長海老が呼吸とともに吐き出す朱色の息、いや、水は高濃度の鬼灯水らしく、せっかく浄化した地底湖の水が汚染されていっている。
「みんな!こいつが水源を汚染させている原因で間違いなさそうだわ!
レベルは45!
油断しないで!」
「はい!」
「了解ッス!」
「頑張るにゃ!」
私の掛け声に三人娘の声が返ってくる。
レベルは以前戦ったトリプルヘッド・シャーク並み。
しかもサオリさんが居ない今、それを4人で何とかしなくてはならない。
娘達はトラージの街の迷宮で甲殻類の相手は慣れているはずなのがまだ救いだな。
サナです。
白家の森とはいえ、白鬼族の聖域に新教の人が入り込んでいたなんて、ちょっと嫌ですね。
しかも、水源に毒を盛っていたなんて……。
次回、第七一四話 「鬼灯提灯手長海老」
とりあえずは、この大きな海老をなんとかしなきゃ……海老肉落としたりしないかなぁ?




