第七一一話 「地底湖」
ミツキの排水溝という表現は中々に秀逸だ。
まるでくり抜かれたように2mほどの円の形に岩肌に穴が空いており、そこから水が流れ出し、滝のように下へと落ち、その先は川となっている。
実際には長年の流れで下部の岩が削られているのか、鍵穴型というか、丈の短いてるてる坊主型というか、底辺の部分が川になっており、上流が洞窟内へと続いている。
「こっちじゃ。」
その川の横は人一人がやっと通れるくらいの幅で空いているが、なにせ円形に削られているせいか、足元は斜めになっている上、湿度が高く滑りやすい。
あと、私の背丈だとちょっと高さも低く、歩き辛いこと、この上ない。
滑って川に落ちて、そのまま滝まで、というのを避けるため、白家の嫗の次は背の順に並んで進んでいる。
もちろん私が最後尾だ。
そんな足場も少し歩くと、段々と広くなっていっているのを考えると、横になった円柱型というより円錐型に洞窟が空いているようだ。
岩肌は滑らかで、人の手で削ったようには見えない。
と、いうか、人の手で削ったのならば、こんな円錐型には掘らないだろう。
内側から大きなドリルで穴を空けた。と言われた方がまだ納得できる。
「そろそろ開けた場所にでるぞ。」
白家の嫗の声から少しして、天井が、そして左右も広い場所に出る。
「えーと、なんでしたっけ、しょーにゅーどー?」
「鍾乳洞だな。」
ミツキのいうとおり大きな鍾乳洞の広間に出た。
広さはバスケットボールのコートくらいの大きさだろうか?
と、いっても、四角い空間ではなく、どちらかというと楕円に近い形だが、人の手の入っていない複雑で自然な形をしている。
そのほぼほぼ全てが地底湖になっており、今立っている場所から少し奥が、まるで桟橋のように少し広くなっているくらいだ。
そしてその場所に小さな祠が立っている。
「稲刈りが終わって一段落が経った後、白家の一族で、あの祠に感謝の儀を行うんじゃよ。」
あれ何にゃ?というチャチャの問いに白家の嫗が答えていた。
一年、水に困ることなく過ごすことが出来るのも、この地底湖のお陰だ。というお祀りらしい。
「お水、凄い透明だけど、底までは見えないね?」
「暗いせいもあるかもしれないッスよ?」
隠し部屋から持ってきて以来、地味に愛用しているランプを掲げながら水面を眺めているサナとミツキ。
ちなみに、普通のランプを白家の嫗も持参している。
そのランプから、こよりのようなもので火を取り、岩壁に備え付けられた蝋燭に火を移していく白家の嫗。
少しずつ広間が明るくなっていく。
「あっちの奥が、白家のご先祖様が入ってきたってところッスか?」
「いや、あっちはもっと奥に進む道で、先は水没して行き止まりになっておる。
そっちの通路が、その道じゃが、今は出入り口は塞いでおるよ。」
白家の嫗、意外とチャチャやミツキには丁寧に答えてくれるんだよな。
「で、これから、どうするんじゃ勇者殿?
この広さの洞窟から、原因を見つけるとなるとことじゃぞ?
まさか潜って調べるというわけでもあるまい?」
改めて私に向き合い、そう問いかけてくる白家の嫗。
いや、そのまさかの方法で行こうと思っているのだ。
▽▽▽▽▽
白家の嫗の許可を得て、私達4人は地底湖へと飛び込み、潜っていっている。
もちろん、事前に『遊泳の加護』を受けて来ているので、呼吸に関しては心配ない。
下から水面に映る呆れたような白家の嫗の顔が見えなくなるほど、降りていってもまだ底には着かないようだ。
ビジュアライズで広げた水脈のマップを明かり代わりにしながら、下へ下へと降りていき、10mほど降りたところでやっと水底に足が着いた。
ここまで潜ると、上は微かに明るいかな?という程度で、ほぼ真っ暗だ。
水の透明度は高いようだが、それにしても限度というものがあるのだろう。
ちなみにこの地底湖の水、すでに鑑定済みで、全部が『鬼灯水(濃)』になってしまっている。
まずは、これをなんとかしよう。
チャチャにゃ!
チャチャ、暗いところでも見える方にゃけど、それでも水の中だと暗いにゃね?
迷宮だと壁が光ってるから明るいにゃけど、ここは真っ暗にゃ。
次回、第七一二話 「鬼灯水」
お魚とかはいないのかにゃ?




