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第七十話 「おにぎり」

 今回はサナ視点です。


 お昼ごはん用意しておいたけど、お父さん朝みたいに喜んでくれるかなぁ。


 ごはんと塩気のあるお漬物でつくったおにぎりに卵焼き、カップを使ってお湯で温めた腸詰、ポテトサラダというお芋の和え物みたいなやつ。

 あとは湯呑にお茶を用意。

 この『電気ぽっと』って魔法道具、凄い便利。


 料理は朝市のおかみさんから買ったものばかりだけど、せめてこれくらいはと握ったおにぎり喜んでくれると嬉しいなぁ。


 お昼ごはんというより、お弁当並べただけみたいで寂しい。

 もっともっとお料理出来るんだけど、道具が無いのと材料が噴水公園より向こうに行かないと買えないみたいなのが残念。

 それさえあればギルドの2階の調理場でお父さんにご飯つくってあげられるんだけど。

 でも、二人分の買い物って逆に難しいかも?

 材料残しちゃっても旅先だから保管できないし。

 大きな街だと量り売りって好きな量だけ買える売り方もあるって聞いたけど。


 「ただいまー。」


 お父さん帰って来た!


 なんか飼い主みかけた犬みたいだけど、ついつい駆け出しちゃう。

 わんわん。

 

 「おかえりなさい、お父さん。」

 「ただいま、サナ。」

 思わず抱きついたあたしにお父さんは前にしてくれたように二つの角にまたちゅーをしてくれた。

 くすぐったいような気持いいような感じ。

 胸がキューってなる。

 きっとしてくれると思って角隠し外してきて良かった。


 貧角で悩んで隠していたけど、お父さんはこんな角でも可愛いい、綺麗っていってくれるのが嬉しい。

 でも、くっついている時とか、たまに無意識で弄ぶのはどうにかして欲しい。

 嬉しいけど身体ぷるぷるってなる。


 身長差のせいで角がお父さんの唇に近いせいか、お父さんはよく角にちゅーしてくれる。

 鬼族の愛情表現だからあたしは嬉しいけど人族同士は唇同士が愛情表現だというので代わりにお父さんの唇にちゅーしようとすると、ちょっと抵抗されるのは不満。

 可愛がってくれる時にはあんなにしてくれるのに何故だろう?


 しょうがないのであたしはお父さんの頬っぺたにちゅーをする。

 立ったままだとお父さんに屈んで貰わないと届かないけど、これだと素直にお父さんも喜んでくれる。

 

 お酒注いだ時にしてくれるたれ目になる方の喜び方じゃなくて、尻尾あったら振ってくれそうな感じの方の喜び方。

 お父さんは目つきが鋭いので一見つり目に見えるけど、気分が和らいでいる時に見せる優しそうな、幸せそうなたれ目の笑顔も可愛くてあたしは好き。

 そういう笑顔の時はたいてい角や頭も撫でてくれるし。


 「サナごめん、昼飯のことすっかり…え?」

 お父さんは途中でテーブルの上のお昼ご飯に気づいたようだ。


 「もしかして、サナ、買っておいてくれたの?」

 「えへへー、白いご飯を買って、おにぎりも握ってみました。」

 「白いご飯って、外まで行って買ってくれたんだ…」

 「ほんとはもっとちゃんとしたお料理もできるんですよ?でも、今は道具も無いし、これくらいしかっ…」


 急にお父さんに抱きしめられた。

 背中と頭も手のひらで包まれるように強く、ちょっと苦しいくらいに。


 「お父さん?」

 「この街に入る時に、まだ一人だと人族の中が怖いような事言ってただろう?

怖かったんじゃないか?大丈夫だった?」


 ちょっとうるっと来てしまった。

 お父さんは、この人はあたしの勇気や努力や気持ちをちゃんと見てくれる。

 心配してくれる、褒めてくれる。


 好き、大好き。

 お父さん大好き。

 ギュッと私も抱きしめかえす。

 このままギュッと一つのおにぎりに、御結びになってしまいたい。


 「大丈夫です。だって、あの店のおかみさんも同じ鬼族でしたし。」

 ちょっととぼけてお店の方の話をする。

 最初にあのお店を選んだ時だって、きっとお父さんはあたしと同じ鬼族がやっているお店を選んでくれたんだと思う。

 だって白いご飯を出すお店はもう一つギルドの手前側にあったもの。


 最初にギルドでご飯食べた時にわざわざロマさんの近くに座った時みたいに、あたしが怖がらないように、怯えないようにそうしてくれたんだと思う。

 

 本当は一人で外に出るのは怖かった。

 でも、どうしてもお父さんに自分がつくったご飯を食べてもらいたかった。

 おにぎりじゃ自分でつくったっていうほどのものじゃないけど、それでもこれが今のあたしに出来る数少ない愛情表現だから。


 「そうか、ありがとうサナ。本当に、本当に嬉しいよ。」

 弾むような声でお父さんはそういって、また角にちゅーをしてくれた。

 雨あられのように次々と。

 そのまま頬にも、瞼にも、おでこにも、鼻の頭にも、そして唇にも。


 嬉しい。

 そのまま、お互い目を合わせてクスクスと笑ってしまう。

 それくらいお父さんは浮かれてくれて、たぶんあたしもそういう顔を今しているんだろう。


 「ちょっと、先に手を洗ってくる!」

 お父さんは照れくさそうにそういうと、お風呂場の方の扉の中に消えていったので、 あたしはそのままテーブルの方にいって向かい合わせに用意してあった料理を横並びに並べ直す。


 今は向かい合わせじゃなくて、くっついてご飯食べたい。

 本当はもう可愛がって欲しくてたまらなくなってるけど、今は休憩に入ったんだから我慢しなきゃ。


 今までに比べて、昨日の晩くらいからは少し我慢が効くようになってきたと思う。

 結局、朝には我慢できなくなっちゃったんだけど…。


 たぶん発情期が収まって来ているんだと思う。

 でも、お父さんと一つになっている時、凄い幸せだから発情期終わった後でも可愛がって欲しいなぁ。駄目かなぁ。


 駄目駄目。あまりそういうこと考えすぎるとまた我慢できなくなっちゃうから駄目。

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