第七○七話 「井戸と三人娘」
「流石に眠いですね。」
「眠いッス……。」
朝弱い組のサオリさんとミツキが目元を擦りながら眺めている中、さっさと自分は淫魔化してしまう。
今いるのは早乙女家の裏口にほど近い井戸の周りだ。
時間は夜明け前で、なんでこんな時間かというと、本当に井戸の水が原因か確認するためには淫魔化した状態で淫スキル【淫具鑑定】をしなくては、ならないと思ったからだ。
と、あたかも自分で思いついたように言っているが、実際のところは、昨晩寝る前にサナにその事を指摘され、今朝、朝早い組のサナとチャチャのツープラトンで無理やり起こしてもらったのだったりする。
ほら、私も朝弱い組だし。
それはさておき、結論からいってしまえば、淫魔化する必要はあまりなかった。
と、いうのも、井戸水の名称が『鬼灯水』という、そのままずばりの名前に変わっていたからだ。
一応、鑑定結果には『飲むことにより鬼灯の加護(10%)が発動する。』と、追記表示されている。
誰かに淫魔の姿を見られても面倒な事になりそうなので、男の身体に戻り、井戸水が当たりだったことを皆に伝えた。
ちなみに男の身体で鑑定しても、『鬼灯水』と表示されるので、汚染した井戸はこの身体の状態でも確認できるようだ。
一部錬金術のスキルでもある淫スキル【淫具制作】や、調理のスキルでもある【裸エプロン】を鑑定に組み合わせても『鬼灯水』のレシピが出ないので、この『鬼灯水』の原因は単純に水に毒を混ぜたというような状態ではないようだ。
「なんじゃ、お前らか。」
急に背後から声がかかる。
今は、レシピやら色々見ていた最中で、レーダー見てないから完全な不意打ちだった。
振り返ると、裏口から肌襦袢のサビラギ様とアエさん、そして眠そうなミナちゃんがこちらを覗いている。
おそらく裏口から物音がするのにアエさんが気づいて、サビラギ様を連れてきたのだろう。
同室だったミナちゃんはその巻き添えかな?
って、さっさと男の身体に戻っておいて正解だったな。
▽▽▽▽▽
「始めていいよ。」
「じゃあ、いくッスよ!」
「はいにゃ!」
「うん。」
私の合図で井戸を囲むように手を繋いでいる三人娘が魔力を練り上げていく。
今やっているのは、同系統の魔法を一本化してより上位の魔法を発動させたり、効果範囲など効果を操作する同調術式。
メインとなるのはミツキの魔法効果解除魔法、サブはサナの魔法解除魔法、チャチャはそのブースター兼魔力タンク役だ。
繋いだ三人の手の中を、まるでコイルを回る電気のように魔力が回っていき、光輝いていく。
パッと見、今までのサナとミツキの無線?での同期魔法とは、レベルが違うように見える。
「よほど気が合う三人なんじゃな。」
似たような光景を見たことがあるのか、サビラギ様が関心している。
『いくッス。』
念話での合図に全員が頷き、繋いでいる手をそのままに井戸を抱きしめると、今まで高まった魔力が逃げ場を得たように石造りの井戸に吸い込まれていった。
そして一拍。
「ぷはぁ、どうッスかね?」
渦巻いていた魔力が落ち着いたのを確認して、ミツキが声を上げる。
「今、確認してみるよ。」
手を離し、井戸から離れる三人娘と入れ替わりに井戸を覗き、【淫具鑑定】で井戸水の鑑定を行う。
「うん、『鬼灯水』から普通の水に戻っている。
成功だよ。
みんなよく頑張ったね。」
「やったにゃー!」
「良かった!」
「ふぅ、緊張したッスー。」
抱き合うように、というか、ミツキを囲むように一塊になって喜ぶ三人娘。
「これで一先ず対策は取れそうですね。」
それを眺めているサオリさんもホッとしたような表情だ。
サナです!
さすがミツキちゃん!
上手く言って良かった!
ちーちゃんも頑張ってくれたし、これで里の救われますね!
次回、第七○八話 「汚染」
必要魔力は多そうだけど、3人で分け合っているから、それなりに回数は唱えられるかも?
いざとなればお父さんのお薬もあるし、大丈夫!




