第六八八話 「第四階梯」
今回の詮議も前回と同じく集会広場で行われる。
前回と違うのは、縁台の前に並ぶのが、私を中心に、左右にミツキ、チャチャの3人だけなことと、ギャラリーが前回よりも幾分若いように感じられることだ。
前回はどちらかというと、お土産の配分のためか主婦層が多かったような気がするが、今回はどちらかというと青年層が中心のように見える。
ミツキ曰く、鍛錬場で見た顔が多いというので、そこでのミツキやチャチャの活躍を聞いて見に来た者も多いのだろう。
周りの声に聴き耳を立てると、「第四階梯!?嘘だろ?」などという声が、そこらから聞こえる。
特に赤の家守様とチャチャとの一戦が噂になっているようだ。
話では聞いているが、ちょっと見て見たかったな。
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詮議自体は、思った以上にあっさりと終わった。
元々の賛成派である早乙女家、赤家、青家は勿論、条件付き賛成派の黒家や白家も、ほぼ手放しで「約定は果たされた。」と、試練の成功を認定してくれたのだ。
予定より上位の魔素核と、なによりサビラギ様の根回しが上手くいったのだろう。
ランク4の魔素石にギャラリーが沸いた割には、淡々と詮議が進んでいったので、拍子抜けしたくらいだ。
なにはともあれ、これで早乙女家への5日の滞在と、結界守跡地への10日の滞在が許可された。
今日が2日目なので、あと3日のうちに里に有益な者であることを更に示すことが出来れば、再度五家で詮議の上、結界守跡地に1年更新で住めることになる予定だ。
流石に3日では里の不妊問題の解決は難しそうだから、まずは布石からだな。
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「まぁまぁ婿殿、飲め飲め。」
「おや、サビラギよ、婿殿とは、また家に勇者の血を入れる気かい?」
徳利を片手に肩を組むように身を寄せてくるサビラギ様に、白家の丸い老女、白家の嫗様が声をかけてくる。
「うちは、そういう家だからね。レンほど強い、いや面倒な勇者ならなおさらさ。」
「面倒とは人聞きが悪いね。だが、確かに敵に回すと面倒だ。」
黒家のぽっちゃりおばさん、黒家の嫗様は、背筋をピンと伸ばしたまま、、そういって盃を傾けている。
「だが、味方、いや、身内となれば、これほど頼もしいころもない。
昨日から里はレン殿の土産で沸いておるよ。
それに加えて、今日はサオリ達が早乙女家の筋へ追加の土産を配ったそうじゃないか。
それだって、昨日出し惜しみした訳ではあるまい?
どういう手を使ったかは分からぬが、新たに用意したもの、そうであろ?」
青家の品の良さそうな老婆、青家の嫗様が、そういいながら、白家の嫗に気をとられているサビラギ様に代わって、お酌をしてくれた。
「はい、空間魔法が得意なもので……おっとっと、ありがとうございます。」
事前にサビラギ様と打合せをしていた台詞の後、注いで貰った盃を一気にあける。
「おお、良い飲みっぷり、レン殿、アタシの酒も飲んでくれ。」
赤家のガタイの良いおばさん、赤の家守様が続く。
なんで、こんな状態になっているかというと、端的にいえば詮議の後の懇親会なのだ。
ちなみに、サオリさんとサナはおろか、詮議の当事者でもあったミツキやチャチャ。
なにより詮議の仕切りをしていたミナちゃんまで帰されているので、これ、実質、前に話で聞いた長老会というやつではないだろうか?
ひとしきり飲まされ、食べさせられ、小一時間ほどたったあと、「さて」とサビラギ様が切り出した。
「皆、十分酒が入り、ひとしきり酔ったことと思われる。
ここで余興代わりに、婿殿、いや勇者殿が、里に出来ることを紹介したいと思う。」
「おーおー、やれやれー。」
サビラギ様の言葉に赤の家守様が囃し立てる。
でも、これ、みんな酔ったというていで、重たいこと話すターンだよね?
角赤亭で覚えたよ。
「まずは赤家。」
「おうよ。」
事前にサビラギ様と打ち合わせはしているものの、ここは慎重にいこう。
チャチャにゃー。
せんぎ?終わったにゃー。
これから、ねねさんの家に戻ってご飯なのにゃ。
ととさんはこの後もお仕事?みたいなのにゃ。
大変にゃね?
次回、第六八九話 「里で出来ること」
うにゃ?サツキちゃんたちも見ててくれたのにゃ?
うん、そうにゃ、一緒に帰るにゃぁ。




