第六八六話 「早乙女家勢揃い」
「なんじゃこれ。」
「あ、お婆ちゃん、おかえりなさい。
流し素麺ですよ、流し素麺。」
縁側と裏庭を使った流し素麺の第1投を、というタイミングで、サビラギ様も帰って来たようだ。
すかさずアエさんが器と箸を配っている。
「流し素麺?」
「今、子ども達がやりますので見ていてください。」
頭に?マークを浮かべているサビラギ様に、そう告げ、改めて第1投目、続けて2頭目を竹のレールに投入する。
最上段に設置している手持ちの焼酎サーバーのような大きな甕の注ぎ口から流れる水に流され、一段目の竹レールを超え、二段目の竹レールに麺が流れていく。
「今ッスよ。」
「えい!」
「やあ!」
ミツキの掛け声に合わせて、サツキちゃんの箸とシロ君のフォークが竹のレールに飛び込む。
「流れちゃった……。」
「ぼくとれた!!」
「やったにゃー!」
サツキちゃんが取り逃した素麺をちゃっかり確保しつつ、シロ君の頭を撫でるチャチャ。
どうやら今日はお姉ちゃんモードらしい。
「面白いものですね。」
「確かにこれは流し素麺じゃな。」
アエさんの旦那さん、アラタさんとサビラギ様が感心している。
流し素麺は基本的に水道が必須なため、比較的新しい食べ方なので、みんなが知らなくても当然だろう。
たしか昭和くらいまでしか歴史も遡れないはず。
ちなみに今回は台所で使っている注ぎ口付きの大甕と、それに【魔力操作】を使って、初級単体水魔法でそれに水を供給しているサナが水道代わりになっている。
っていうか、【魔力操作】が凄いのか、こういう応用ができるサナが凄いのかよくわからないな。
前者ならもっと魔法が生活に密着していそうだから、たぶん後者なのだろう。
氷の器を魔法で作った時に、何かコツを掴んだようなことを言っていた。
「サナちゃんのそれ便利ね、私も【修験者】になろうかしら?なんてね。」
「たぶんなれると思いますよ?」
「え?」
「なんじゃと?」
実はミナちゃんにそそのかされて、アエさんに淫スキル【性病検査】を使い鑑定したところ、サナと同じく白鬼族の希少種だったのだ。
「ととさん、次流してにゃー。」
「おっと、ごめんごめん。」
「いや、婿殿、今の話を詳しく……」
そんな話もネタにしつつ、早乙女家勢揃いの流し素麺大会は賑やかに進んでいったのであった。
▽▽▽▽▽
結論からいうと、今のアエさんには無理だった。
というのも、才能(能力)はあっても、レベル(ランク)が足りないのだそうな。
アエさんのレベルは17、【修験者】はランク2以降、つまり最低レベル20ないと帰依できないらしい。
「婿殿ならサオリのように、アエも、すぐにレベル上げられるのではないのか?よっと!」
「出来ないとはいえませんが、オススメしません。」
流石に未亡人のサオリさんはともかく、旦那さんのいるアエさんに手を出すわけにはいかない。
「ただ、せっかく里に迷宮があるんですから、みんながレベル上がりやすいようにアドバイスすることは出来ると思います。次いいよ。」
「そっちの方が凄いことのように思いえますが。よっ!」
アラタさんも子供たちが面白半分で流している素麺を掬いながらそう相槌を打つ。
「どれくらいかかりそうかの?……あ。」
「お母様、そんなに急がなくても、元は単なる冗談なんですし。はいっ。」
サビラギ様が見逃した素麺をキープしながらアエさんがそれに続く。
「やってみないと分かりませんが、里の不妊治療の件もありますし、鑑定関係は一遍にやったほうが効率的だと思います。
どっちにしろ、詮議が終わってからですね。
あと、ロマさんも手紙の返事待っていると思いますよ。って、おお、大量に来たな。」
冷静に考えたら、流し素麺しながらするような軽い話じゃないなこれ。
サナです。
新しいお台所の業務用魔力コンロは、【魔力操作】を使っての充填だと容量が大きすぎて大変で、魔素核使うのが前提みたいですけど、里なら魔素核も手に入りやすいいから、大丈夫そうです。
次回、第六八七話 「詮議再び」
それでも一度、アエ姉さんもお父さんに【魔力操作】教えて貰った方がいいんじゃないかな?
 




