第六八五話 「イレギュラー」
よくよく話を聞くと、ミナちゃんが交通事故で死んだのが1994年の始め。
自分で運転している軽自動車が右折中に信号無視のトラックが突っ込んできたのだそうな。
で、サオリさんの弟さんであるサノボリさんが現在18歳で享年は21歳の1988年。
死因は肺がんで1年持たなかったそうな。
更に、ナイラ王朝の勇者であり、サノボリさんの父親でもあるタクミ=ウチウミが現在40歳で、享年は18歳の1966年。
ちなみに死因は農作業中の事故。
うん、ぱっと見、矛盾していないというか、元の世界とこちらの世界が並行的に同じ時間の流れの上で、転生したり、召喚されたりしているようだ。
それに比べて私の場合は、現在20歳で、享年(?)40歳の2018年から来ている。
「めっちゃ未来から来てんじゃん。」
そうなのだ。
現在年齢でいけばサノボリさんと同じくらいの1980年代後半、元年齢でいけば、勇者タクミと同じくらいの1960年代中盤から呼ばれるべき(?)なので、未来から来過ぎているというか、私の時間軸からすると、ここは差し引き『10年くらい過去の世界』になるはずなのだ。
理由は勿論分からないのだが、本来のルールで呼ばれていない。ということだけは確認できたというところだろう。
ちなみに元の世界でいうとサノボリさんとミナちゃんは1才しか歳が違わないので、元の世界の話が合いそうなのだが、ミナちゃんはまだ転生者であるということをカミングアウトしていないので、その話を出来ないでいるらしい。
本来であれば、帰依の儀式の際に、ご先祖から知識を賜った、と、いう『てい』で、元の世界での知識や経験を公表し、一部の人間に転生者であるということを教えるのだが、ミナちゃんの場合、族長への帰依の儀式は終わっているものの、サナが攫われ、サオリさんがそれを追って飛び出していったというゴタゴタのため、まだそれが出来ていないとのことだ。
「大変だな、ミナちゃんも。」
「大変よー、ただ、アタシの場合、タクミおじ様やサノボリ兄さんみたいに農業に明るいわけじゃないから、たいした里の利益になりそうな知識や技術はないんだけどね。」
オタ知識や資格を持っている簿記や、算盤、ワープロや電卓の技術なんてどうすればいいのよ特に最後の二つ。なんて、毒ずいているミナちゃん。
ああ、そうだ、一応、『同じ世界から来ているかどうか?』くらいは確認しておいた方が良さそうだ。
「そういや、元の世界で、死ぬ前に知りたかったことある?
なにか有名な作品の続きだとか、私が答えられそうな範囲でだけど。」
「そうね……」
また顎に人差し指を当て、小首を傾げたポーズで少し考えた後、ミナちゃんから出た言葉は、
「幽〇白書の魔界統一トーナメントで、結局誰が優勝したの?」
「煙鬼。」
「誰よそれ?!」
うん、とりあえず同じ世界からは来ているようだ。
▽▽▽▽▽
「お邪魔しますにゃー!」
「うふふ、ただいまでいいわよ?」
「にゃ?じゃあ、ただいまにゃー!」
「にゃー!」
「にゃー!」
「なー。」
「真似されているッスね。」
「あっはっはっは、娘達は色々と真似したい盛りでね。」
「草履脱がすよー?」
懐かしい漫画の話をミナちゃんとしているうちに、そんな声が遠くから聞こえて来た。
どうやらサオリさん達が帰って来たらしい。
ふと窓を見ると日も高く上がり、もう昼時のようだ。
結構長いこと話し込んでしまったな。
▽▽▽▽▽
「もうすぐ来るッスよ?」
「とれるかな?」
「ぼく、とる!」
「頑張れにゃー!」
「あー」
「イノコちゃんは、また後でね。」
半分に割った竹の前へと歩いていこうとする最年少のイノコちゃんをサオリさんが抱きかかえていく。
その竹の片側にはミツキとアエさんの長女、サツキちゃんが箸を構えて、その反対側ではサツキちゃんの弟、シロ君とチャチャがフォークを構えてその瞬間を待っていた。
サオリです。
ミナとレン君が打ち解けているようで何よりです。
それにしても、これ、うちには水道がないのにどうするのかしら?
次回、第六八六話 「早乙女家勢揃い」
はいはい、イノコちゃん、はい、お母さん来たよー。
ちゅるちゅる食べようねー。




