第六七六話 「ミツキとチャチャとサビラギ様」
今回は第三者(黒家宗家の主)視点です。
さて、サビラギに呼び出されて来たは良いものの、鍛錬所も久しぶりだわね。
「よ!黒婆!」
「よ、じゃないよ、赤の。なんだい、いい歳をして年上にその口の利き方は。」
「まあまあ、サビラギのやつが面白いものを見せてやるっていうからさ、黒婆もどうかと思ってさ。
まあ、上がんな上がんな、黒婆なら、ここももう懐かしかろうさ。」
この娘は、いまは赤家の代表だってのに、相変わらず、お転婆というか、ガサツというか。
そういって、アタシを追い越し、鍛錬場の扉をバンと開け、中に、のしのしと入っていく。
こっちの返事くらいちゃんと聞くもんだわね。
しょうがなく後をついていくと、鍛錬所の東西に若い衆が正座して座っていた。
今いるのは赤の若衆だけとはいえ、確かに懐かしいわね。
「黒家の嫗、ご足労感謝する。」
南座の中央に座っていた早乙女家の……いや、サビラギが立ち上がり、手を伸ばしてこちらに歩いてくる。
昔からこの娘は愛想と腕だけは良いんだから。
いや、笑い顔もだね。
どうも、あたしら古いもんは、この娘のこの顔に弱い。
「で、見せたいものって、なにさね。」
「まあまあ、黒家の嫗、嫗にだけは、先に見せておきたいと思ってね、まま、こっちへこっちへ…。」
「どうせ、同じことを赤家の小娘にも言ったんだろうさ。ひっぱんなくても歩けるわさ。」
「流石にもう小娘って歳じゃーねーな。アタイも。」
「あんたら二人は昔からそうさ、勝手に走ってって、後始末ばっかりさせるんだから…。」
「勝手に走るのは、流石にアタイでもサビラギには負けるわ。」
「ははは。」
「ははは、じゃないよ、まったく……おや?」
「おはようございますにゃー。」
「おはようございますッス。」
目の前には、キュノミス家の、いや、まだ正式には家入りしてないらしいけれども、そこの兎の娘と猫の娘が座っていた。
意外と手をついての礼が様になってるわね。
「いやぁ、白角亭で働いていた事がありまして…。」
「チャチャも宿屋で働いてたにゃー。あと、お婆ちゃんにさっき教わったにゃー。」
兎の娘が頭を掻きながら、猫の娘が片手を上げながらそう返事をした。
「黒婆、声に出てたぞ?」
「うっさい、あんたも、この娘達を見習って、少しは行儀よくしたらどうだい。」
「行儀良いだけじゃ赤家は務まらないんだよ。」
「そういうのは出来てからいうもんだよ。なんだい、詮議の時だって、いっぱいいっぱいだったじゃないか。」
「まぁまぁ、黒家の嫗、その辺りで一つ。
見せたいものというのは、他でもなく、この二人のことで。」
サビラギがアタシの赤のの間に入り、兎の娘と猫の娘を指し示す。
たしか、兎の娘がミツキ、猫の娘は…さっき自分で名乗ってたわね。
「この二人?
昨晩聞いたよ。なんでも、レンって子と一緒に、もう祠の試練を達成したんだって?
吹かしじゃないだろうね?」
「正に、正にそのとおり、それが吹かしじゃないってところを、黒家と赤家に先に証明しておきたいってのが、今日、ご足労していただいた本題なんです。」
「ま、単純に腕を見せてくれるっていうんだ、赤家の若い衆と手合わせをさせてみようと思うんだけど、兎と猫の娘を黒家に内緒で…なんてしたら黒婆、怒るだろ?
だから、怒られる前に、こう、ちょいと顔を出して貰ったのさ。」
「怒られたくないなら、最初っから態度で示しなさいよこの娘は。
まぁ、言いたいことは分かったし、通したい筋も分かった。
黒家として望むべきものは強い異種族の種。
とはいえ、強き異種族に敬意を払うのも、また黒家の家風。
サビラギ、あんたの顔を立てて、ここは大人しく見届けさせて貰うよ。」
ま、アタシを立ち会いに呼んだって事は、赤の顔が潰れるかもしれないくらいには、あの二人が強いって事だろうからね。
サオリです。
お母様、ミツキちゃんとチャチャちゃんを赤家と黒家に会わせるって連れて行ったけれども、行くのはたぶん、鍛錬場よね。
二人とも大丈夫かしら?
次回、第六七七話 「強いのはどっち?」
ミツキちゃんはともかく、チャチャちゃんは、手加減とか苦手そうだけど……。




